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社会資本の整備運営のための合理的社会システムのあり方

社会資本はもっとも合理的な選択が行われる社会的合理的システムによって整備運営すべきである。その時点で客観的に最もよい選択をするためには、その分野の専門家の判断に頼るのが合理的と考えられる。このような観点から社会資本の整備運営のための合理的社会システムのあり方について考える。

社会資本の整備は主に官公庁によって行われるが、一部分は民間組織や個人によっても行われる。たとえば、道路とその上を走る交通機関であるバス輸送網についてみると、道路は国土交通省と地方自治体が建設・維持管理し、道路上の交通規制や信号機の設置と維持管理は警察庁が担当する。さらに、バスは市の交通局や民間会社が運行するが、この輸送業務は国土交通省の管轄下におかれている。このように、バス輸送施設一つを見ても、構成する施設ごとに建設・運営・管理する主体が異なっており、これらの主体間の相互調整がうまくゆかなければ、施設の機能は十分に発揮されない。したがって、社会資本の整備に係わる主体が各施設の最終目的を最も効率よく達成できるような相互調整のための体制を作る必要がある。この体制がうまく機能すれば、省庁間の縦割り行政の弊害は取り除かれることになる。また、社会資本は整備されたものを適切に維持管理し、必要に応じて更新することによって初めて十分機能を果たすことができる。このとき、上述のバス輸送の場合のように多くの施設をうまく相互調整して最大の機能を発揮させることが重要である。したがって、このような施設の総合的な維持管理体制を作り、機能させる必要がある。また、今後は、祉会の情報化、活動の高度化にともなって社会資本の提供するサービスの信頼性に対する要求が高まるので、この点に対する配慮が必要となる。

このような社会資本の整備運営システムは、専門家の担当する政策提案システムと政治家が担当する政策決定システム、主に行政組織と民間企業が担当する施設建設、維持補修システムなどからなる。

以下に、各システムの内容について述べる。

1.政策提案システム

 このシステムでは、主に行政組織が社会における社会資本サービスに対するニーズの調査に基づいて社会資本の整備運営のための計画作りを行う。

 たとえば、上述のバス輸送体系計画の策定手順は、まず計画の目標、対象地域およびそのゾーン分割、計画の目標年次を決め、つぎに実態調査および現況解析によって地域社会と交通システムと交通需要の将来予測を行ない、それに基づいてバス輸送システムの将来計画代替案を策定する。そして最後に、いくつかの計画案を評価し、評価基準に合格したものを最適計画として決定する。そして、理想的には、たとえば具体的サービス内容に関して、所要時間、運行間隔や料金の変化が人々の交通選択にどのような変化を与えるかなどを分析し、現状から理想状態へ移行するための最適料金等の政策を求め、それを時間的経過の中で着実に実施し、場合によっては料金設定と人々の反応の観測結果に基づく応答的対応策をとりながら最適交通状態へ誘導するという動的交通政策の採用を検討する必要がある。この動的交通政策をテレビや新聞などで人々に十分認識してもらうよう努めることが政策を成功させる鍵と考えられる。  

また、社会資本に関するわが国独自の整備水準の設定とその実現方策を考える必要がある。

わが国は、来るべき高齢化社会、成熟社会に向けて早急に経済活動水準に調和した社会資本の整備を進めなければならない状況におかれている。従来は、主として先進諸国との相対比較で社会資本の整備水準の目標値を決定してきたが、本来は、先進諸国との相対比較で決めるのではなく、わが国独自の考え方に基づく整備水準を決める必要がある。

それでは社会資本の整備水準はどのように決定すべきであろうか。社会資本の種類によって具体的なサービス水準の設定方法は異なるが、基本的な考え方は次のようにすべきであろう。社会資本の整備に当たっては、基本的に今後2050年間以上のそれにともなう社会的便益と費用を比較し、便益が費用をある程度以上超過するプロジェクトのみを実施すべきである。このとき社会的便益としては、その施設のもつ本来のサービスだけでなく、都市を構成する機能や景観を形成する機能さらに地球環境に与える影響すなわちCO2削減効果も評価すべきであるし、費用には建設・運営費だけでなく、地球環境を含む環境影響も貨幣換算して加算すべきである。

そして、社会基盤施設整備に関しては、原則として官公庁が利用者と運営者の両方の立場からみた、地域別の適正サービス水準の設定とその監視に責任をもち、その範囲内で民間の経済活動べ一スで供給できるものは民間で、また民間企業では建設・運営資金を確保できない施設、すなわち官公庁でしか供給できないものは公的に整備するようにすべきである。

たとえば、交通施設を例にとると、国は各地域の社会経済特性、道路と鉄道の輸送分担割合などを考慮して地域問、地域内交通に対する適正輸送サービス供給水準を決定する方法について早急に調査検討し、そのガイドラインを作成すべきであると考える。地域別適正輸送サービス水準は地域住民の生活水準その他によって決まる価値観によって変動するが、異なる地域間での輸送サービスの公平性を確保するという考え方に従えば、満足度水準の均等化基準によってサービス水準を設定すべきと考える。バスなどの公共輸送機関の運行頻度の設定を例にとれば、大都市と地方部では当然差があるが、それぞれの地域の住民の満足度は同じになる水準に設定するという考え方である。

 すなわち、各地域の社会資本の提供するサービスの物理的水準は異なるが、各地域の人々のサービスに対する満足度がほぼ等しくなるように整備水準を設定すべきであると考える。

  また各地域で設定された社会資本サービスが確実に実施されなければならないので、実際に実施されているかどうかを監視する機能を官公庁にもたせるべきである。

2.政策決定システム

政策決定は政治家が担当すべき事項であるが、ここで社会資本整備の計画策定者と政治家の役割分担が重要となる。

 社会資本の計画の決定に際して、計画代替案を策定する計画提案者と政治家の役割がどのようであるべきかということが大きな問題の一つである。計画提案者が科学的計画策定技術を駆使してよい計画を策定しても、最終決定をするのは政治家であり、地道な努力がどれだけ報われるかわからないという不満を聞くことがよくある。このような問題をどのように考えるべきであろうか。

 社会資本の計画の評価に係わる主体としては、施設の利用者、建設運営者、周辺住民、自治体、国家などがあり、計画決定においてはこれらの異なる立場からの評価を総合化する必要がある。このとき、計画提案者は従来の技術水準で判断できる限りにおいて最善の計画案を提示し、これを評価主体が評価することになる。現在の技術水準ですべての評価主体を完全に満足させる計画案を作成できるとは限らないので、そのような場合には政治的妥協によって合意を図る必要が生ずる。これを行うのが政治家の役割である。計画を策定する行政担当者は、客観的にみてよい計画を策定するための計画策定技術を磨き、政治的妥協に頼る範囲を狭める努力をする必要があるが、人間社会において、これを皆無にすることは不可能であろう。したがって、政治家もその調整能力を磨き、計画策定技術の足りない部分を補完する必要がある。計画提案者と政治家はそれぞれの役割を自覚し、よりよい社会資本の整備を効率よく推進するために協力し合わなければならないといえよう。そして、一般市民は両者の活動の適否を見守り、裁判制度と選挙制度の適切な活用により、社会基盤整備の計画策定とその実施が順調に進むように協力する必要がある。この際、当該事業に関する情報開示が適切に行われることが必要不可欠であることは言うまでもない。

そして、社会資本の整備に関する問題解決の基本的方策は、問題の原因を根本から取り除くことである。そのためには、まず社会資本整備に係わる状況の変化に適切に対応できる柔軟性のある行政組織の実現と適切な教育を受けた優秀な人材の育成が必要である。さらに、社会資本の整備計画の内容をPRし、地域住民にその内容と意義を十分に理解してもらい、積極的な協力を得られるようなシステムを作る必要がある。それと同時に、社会資本の適正整備水準のあり方に関する研究を、人々の価値観の変遷やサービスの利用実態の分析などを踏まえて早急に実施すべきである。

3.社会資本の建設および管理運営システム

 社会資本の計画、建設、管理運営を行うシステムの主要部分を担うのは原則として国や地方自治体の行政組織と民間企業である。現在わが国の社会資本に種々の問題点があるということは、その整備を担当する組織にそれらの問題点を解決する能力がなかった証拠であり、改革がなされる必要があるということになる。わが国の中央および地方政府は現在の日本の繁栄をもたらした点では、評価できるが、いくつかの問題点をもっていることも確かである。その問題点の一つは役所間の縦割行政の弊害である。このため省庁間にわたる社会資本である交通施設などの整備においては、本来交通機能の実現に向けられるべき労力の一部が省庁問の調整作業に費やされている感がある。多くの省庁に関連する社会資本を整備する際には、それに最も適した総合的な組織を一時的にもっと柔軟に構成できるような体制をもつ必要があるし、場合によっては時代と二一ズに即して省庁の再編も必要となろう。

 二つ目は、社会資本の利用者の需要を的確に把握し、場合によっては利用者がより高い水準を求めるように教育をしなければならないのにこれが十分行われていないことである。社会資本の整備は国民の二一ズに基づいてなされるので、国民が低い水準の施設で満足すれば、整備水準も低くなってしまうわけである。

 三つ目は、社会資本建設によって土地を買収されたり、環境影響の被害を受ける関係住民の合意を得る方法の問題であるが、基本的には悪影響のある地域の土地は買収し、社会基盤施設が住民に悪影響を与えないようにする必要がある。また大規模な施設を建設する場合には、その敷地を含む地域で区画整理や再開発事業を行い、地域住民が共同で社会資本の用地を負担することも考える必要がある。いずれにしても計画に関する情報を公開し、時間をかけて話し合って関係住民の理解と納得を得ることしか他に方法はないといえよう。

4.社会資本整備のための社会システムと政治家の役割

社会資本整備に関わる組織は、立法、行政、司法の公的機関、民間企業と市民からなり、その中心で社会資本整備事業を推進するのは、政治家である。社会資本整備事業の計画を行政機関が作り、それに基づいて施設整備事業を民間企業が行い、立法、司法機関がその事業の推進を支援し、市民が注視する役割を持っている。

ほとんどの社会基盤施設すなわち社会資本整備は公共事業として一部の例外を除いて一般に税金で行われ、中央および地方政府の政策によって実施される。社会資本は地域社会の基盤を形成し、大規模で、10年以上の長期的展望で整備されなければならないので、その整備方針である基本計画は約10年ごとの見直しは考えられても、1~4年間隔で行われる政治家の交代毎に変えられるようなものではない。     

現在わが国では、国会で国の社会資本整備に関する政策課題たとえば、高速道路の料金問題や治山治水対策問題などについて議論しているが、このような問題について専門家の助言を受けていると考えられる議員が議論するより、たとえば土木学会などを中心とする専門家検討チームが議論する方が社会に対して問題解決策を提示していくのに望ましく、我々の社会システムとしてはより合理的であるといえよう。そして、政治家はその結論を受け、地域間や社会資本と教育、医療などの部門間の調整を受け持ち、政策の実施に責任を持つことにする。現在の政治行政システムでは、各種審議会が専門家検討チームに該当するのであろうが、機動性、問題対応能力において十分に機能しているように見えないので、その役割の明確化と政治家の役割の規定をする必要があると考える。(したがって、このような合理的な社会システムの構築を目指して土木学会などの学会はまず社会資本整備に関する政策課題の長期的展望に基づく解決策の方向について積極的に社会に対して提言をすべきと考える。これを行うことを通じて上記の社会資本整備方策決定のための合理的社会システムの必要性を社会に認識・浸透させ、最終的には望ましい社会基盤施設整備方式を実現することを目指すべきと考える。学会は政治に関わるべきではないという考え方もあるが、交通・産業基盤施設や国土保全施設などの社会資本整備のための工学・技術である土木工学・技術を研究する最終目的はそれが社会で採用され、望ましい国土や地域社会の計画・建設・維持補修のため役立つことであるから、土木工学・技術の社会への導入方法すなわち社会資本整備政策を土木学会の研究課題とするのは当然と考える。)

なお、土木学会などの社会資本整備に関する検討チームは社会資本整備による直接的利害から中立の立場に近い大学・高専の研究者中心に行政担当者等で構成することになろう。この検討チームには、検討に必要なあらゆる情報が官公庁や民間企業から提供されなければならないのはいうまでもない。また、一般の研究活動と異なり、検討期間は課題の緊急性などに応じて適切に設定し、その時点での最善と考えられる結論を出し、その検討過程は事後および必要に応じて途中にも公表されることを原則とし、その内容の公平性、合理性、安全性、社会的有用性などが検証可能でなければならない。

そして、研究者の業績評価においては、この政策検討チームに所属して活動した実績を研究業績と同様に社会貢献として評価すべきと考える。この政策検討業務は検討期間が限られることが多く、ハードな作業となることが多いと考えられ、一般の研究者はできれば参加したくないと考える可能性が大きいといえよう。そこで、この作業に参加してもよいという研究者に登録してもらい、その中から適任者を選ぶ方式を採用したらどうであろうか。こうして構成されたチームにその課題について必要欠くべからざる研究者と考えられる人が含まれていないときは(土木学会の内外を問わず)、その人にチームに加わるよう要請することにする。また、この作業には国や地方自治体が十分な資金を配分し、政策検討作業を通じて研究を行えるようにすることが、研究者が参加したいと思うインセンティブになるであろう。そして、この業務のための事務処理を担当する優秀な人材を確保することも必要である。

なお、このような最適政策決定のための社会システムは、土木関連社会資本整備にかぎらず、教育、医療、農林漁業その他などについても考えられるべきで、それらが出来上がったとき、政策の理解力と専門家をしのぐ調整・実行力を備えた政治家が必要とされるであろう。すなわち、政治家は何をなすべきか、またどのような能力を備えた人がなるべきかが明らかになる。

 

上記提案に対する補足として、専門家検討チームの構成は約20人以下で、そのうち原案作成に携わる10人以下の幹事を選び、原案作成、全員での再検討を繰り返し、成案を練り上げていく方式が考えられる。また、社会のニーズを先取りした適切な検討課題の提案をどのようにして行うか考える必要がある。さらに検討チーム構成員の高い倫理観を保障するための倫理規定の制定も必要となる。検討チームに属するメンバーの本務との調整も考えなければならない問題である。

なお、社会のニーズを先取りした適切な検討課題の探索の方法の一つとしては、自治体の窓口に一般国民からの提案を取り入れる提案受け入れシステムの設置が考えられる。

民主党の高速道路料金制度政策について

民主党はマニフェストで高速料金を原則無料化するといっている。その理由として、欧米の高速道路が無料だからということのようだ。

高速道路は適切に交通管理がなされなければ交通渋滞となり、その機能を十分発揮できない。高速道路料金は交通を制御するための手段の1つでもあり、近年欧州諸国でも道路課金の導入によって交通を制御する方法がとられるようになってきている。このように、高速料金は高速道路の交通を制御するための重要な手段の1つである。したがって、高速料金を無料にするという政策は愚策といえる。民主党がこのような政策を採用したのは、高速道路政策に関する専門家の意見を聞かずに、長期的展望に基づかない、利用者受けのよい方策を採用したからと考えられる。

このようなわが国の社会資本整備政策の決定システムの欠陥を修正するための提案の1つが上述したものである。

ところで、社会資本整備政策の決定に重要な役割を持つ政治家はどのような資質を備えるべきであろうか。

政治家に要求される資質

政治家が扱う事項は多岐にわたるので、それら総てについて精通していることは不可能である。

そこで、必要に応じてそれぞれの問題に関する専門家から解説を聞き、理解して他の政治課題とのバランスを考えて対処方法(この際にも専門家の意見を聴取すべきであるが)を導き出す必要がある。このような行動をとるためには、政治家は、幅広い教養と人脈を持ち、日々提起されるいろいろな課題に優先順位を付けて的確に処理できる能力を持つことを要求される。なお、専門家の解説を理解できる能力をもつためには、大学院で1つの専門分野に関する修士論文を作成する経験をもつことが、得策といえよう。

すなわち、政治家は、ドラッカーのいう真摯さを持ち、常に国民のニーズに目を配り、社会の動静に対する洞察力と政策内容の理解力と専門家をしのぐ調整・実行力を持ち、中長期的展望の下での的確な判断ができ、同時に高い倫理観と奉仕精神を持つことが必要であると考える。

5.社会資本整備とその推進体制のあり方に関する私見

人々が落ちついたゆとりのある家庭生活と仕事とを調和させた快適な日常生活を継続的に営む事ができ、かつ、社会を改善・発展させる活力を失わないようにするのが将来のあるべき社会である。

このような社会を実現するためには、わが国の社会資本整備の現状から考えて将来に向けでどのように地域開発すなわち社会資本整備を進めてゆくべきかについて私見を述べる。

(1)人材養成の必要性―――教育施設の整備拡充

将来のわが国を快適な居住空間に整備し、人々が活気のある豊かな生活を送れるようにするためには、そのような社会を建設する仕事、都市再開発や地域開発を積極的に進める人材が必要であり、またその社会に生活する人々は心豊かで、建設的でなければならない。したがって我々は、この両者の教育を既存の教育機関の活用と目的に適した新しい人材養成機関を創設することによって、進める必要がある。望ましい社会資本の整備水準を決めるのも、それを整備し、利用するのも「人」であり、望ましい社会づくりの基本は、まず人材の育成であるといえよう。

(2)研究開発施設の拡充

わが国の産業の将来を支えるためには常に新しい技術を開発し、産業の技術革新と構造改革を継続的に進めることができるようにしておく必要がある。このためには、筑波研究学園都市や関西文化学術研究都市などのような各種の研究開発機関を複合的に集積した地区を各地域の中心都市に整備し、そこに研究開発担当者や研究成果の利用者等が会合して議論する場であるコンベンション施設を併設し、相互交流を促進する機能をもたせる必要がある。このような地区に創造性豊かな優秀な人材を集めるためには、子弟の教育や文化活動などを含めた日常生活のための質の高い居住環境と、世界的な交流活動を可能とする交通通信施設を整備しておくことが不可欠である。

(3)社会資本ニーズに関する基礎研究の充実

上に、交通施設を例にとって、国は各地域の社会経済特性、道路と鉄道の輸送分担割合などを考慮して地域問、地域内交通に対する適正輸送サービス供給水準を決定する方法について早急に調査検討し、そのガイドラインを作成すべきであると述べたが、社会資本各分野のニーズに関する基本特性について調査分析し、それらの整備に際して問題となる優先順位決定や相互調整に役立つための研究を行うべきであると考える。

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