時評:“高速道路と自動車”
パーソントリップ調査および交通事故調査の原データの研究者への公開の提案
( 2004年”高速道路と自動車”に掲載 )
わが国を始めとする先進工業国では、20世紀後半に急激なモータリゼーションの進展によって、多くの都市で自動車が中心的役割を担う都市交通体系をもつようになり、それに伴う各種の都市問題、街路交通の渋滞、自動車交通騒音・振動、大気汚染、公共交通サービスの赤字による衰退、中心商業地の衰退、交通事故の増加などが顕著となっている。さらに近年では、地球環境保全のためにCO2排出削減の観点からも自動車交通対策が求められる事態となってきた。 そして、経済の安定成長、化石エネルギー枯渇、公共財源不足の時代の都市交通政策として、交通需要を適切に管理することによって、望ましい都市交通サービス処理体系を実現しようとする交通需要管理の考え方が提起された。これは、都市の成長管理にも通じる交通政策で、望ましい地域環境を整備するためには、都市の成長、交通需要を適切に管理する必要があることによる。
このような状況の中で交通需要管理の各種施策(交通の手段、時間、経路などの変更および削減策など)が提案されているが、これらがどの程度効果を発揮するかを検討する必要がある。そのためには、各個人がこのような交通政策に対してどのような対応をするかを予測する必要がある。これを行うのには、パーソントリップ調査結果を活用した高度な非集計交通行動分析モデルの使用が前提となり、これを実行できるのは、大学の研究者が中心となる。ところが、パーソントリップ調査の結果の全体を含むマスターデータを利用することは現在大学の研究者には許されていない。これは、プライバシーの保護が主たる理由と考えられるが、研究者が交通問題解明のためにパーソントリップ調査データを利用することが、プライバシーを侵害するとは考えられないし、多くの税金を使用して調査した結果を社会的に活用しないことの方が問題であると考える。
また、わが国が昨年から目指している今後十年間に交通事故死者数を半減させる目標を達成するためには、まず交通事故実態の調査を行い、これを詳細に分析する必要がある。特に、交通事故は多いとは言え、基本的に特殊な、稀な現象であるので、個々の事故を詳細に分析しなければ、その原因を明らかにし、対策を考えることはむつかしい。交通事故に関する資料は警察による事故原票にまとめられており、これを事故解析に利用できれば、事故分析は格段の発展が期待できる。しかし、交通事故は訴訟事件となることもあり、事故原票は公開されていない。このような事情の下で、交通事故総合分析センターが設立され、ここで分析がなされているようだが、年間百万件近く発生する事故をこの分析センターだけですべて分析することは不可能であろう。
そこで、事件の決着のついたものや、裁判と無関係の事件だけでも事故原票を研究用に公開することを提案する。そうなれば、全国の交通関係の研究者がそれぞれの地域の交通事故をいろいろな角度から分析できるし、また事故分析により適した事故調査のあり方に関する提案なども期待でき、交通事故解析が一層進展する可能性が増すと考えられる。
これらの税金で調査された交通調査結果を研究者に公開し、社会的活用を図ることが交通調査の本来の目的を達成することに直結することになると考え、これを提案する。
