公共交通と私的交通の最適分担関係の明確化
運輸と経済、2000年1月号に掲載されたもの
1. 公共交通サービスの適正整備水準の決定
わが国での20世紀における交通機関の推移を見ると大都市内交通では路面電車中心から1955年以降のモータリゼーションの進展に伴い,乗用車の利用が急増し,道路交通渋滞対策を理由とする路面電車の廃止とともに,代替手段としてバスの導入が行われ,同時に地下鉄の建設が進められた。その結果,現在では,東京と大阪で鉄道やバスなどの公共交通機関の分担率が79~63%であるのを例外として,名古屋以下の都市では30%以下となっており,この比率は減少傾向にある。特に中小の地方都市では,バスの利用者の減少により,バス路線の維持がむつかしくなるという問題が発生している。また,地方部の多くでは,既にバス路線が赤字を理由に廃止され,乗用車を利用できない高齢者などの交通弱者はタクシーに頼るしかない状態となっている。このような状態を放置しておくと,わが国の多くの地方都市や地方部において今後増加してゆく高齢者の生活が不自由なものになる可能性が大きい。
そこで,人々の居住密度の大きさや交通施設の整備状態に対応したその地域社会における公共交通機関と自動車や自転車などの私的交通手段の最適分担関係はどのようなものかを居住者の年齢構成なども考慮して決定する必要がある。このとき,公共交通機関としては,タクシー,バス,路面電車,地下鉄などを取り上げ,タクシーやバスについては乗合方式やデマンド方式などを考え,バス,路面電車,地下鉄などに関しては運輸連合方式などを導入し,最も合理的な公共交通サービスシステムを採用して利用者の利便を図ることを前提条件とすべきである。公共交通サービスは定時運行の場合は20分以内の運行間隔を原則とし,これを実現できないような乗客数の場合はデマンド運行を行うべきであると考える。そして,交通に伴う沿道および地球環境への影響も考慮する必要がある。
この公共および私的交通システムの最適分担関係を求めるための交通機関の費用は現在の公共交通機関の料金体系や自家用車の経費などでなく、公共交通機関については,建設費,維持・運営費などから純粋の費用を求め,既設のものも減価償却した施設利用の実際の費用を求め,またバスや自家用車については道路の建設費やガソリン税抜きの燃料費などから純粋の費用を求め,同時に環境影響費用も推定し,加算するものとする。交通による便益はほぼ等しい価値観をもつと考えられる人々のグループ毎の交通の時間費用なども含んだ一般化費用に対する交通需要関数を推定し,これから消費者余剰を求めることによって推定するものとする。
以上のような条件の下で今後50年間に関して交通の便益から費用を引いた値を最大にする最適分担率を各地域ごとに求め,これの実現を交通政策の最終目標とすべきと考える。
2. 最適交通計画へ移行するための動的交通政策の必要性
各地区の公共交通機関と私的交通手段の最適分担率が求まるとそれを実現するためにどのような方策をとるべきであろうか。基本的には,人々が喜んで交通機関を選択した結果が最適分担率になっていたというのが望ましいので,交通機関の所要時間や費用の設定によって利用交通機関を変え,最適分担率を実現させることを考えなければならない。
このとき,交通システムの静的行動分析に基づいて求められた最適分担率を与える所要時間や費用をそのまま採用するのでは最適分担率を実現することは不可能で,所要時間や料金の変化が人々の交通選択にどのような変化を与えられるかを分析し,現状から理想状態へ移行するための最適料金政策を求め,それを時間的経過の中で着実に実施し,場合によっては料金設定と人々の反応の観測結果に基づく応答的対応策をとりながら最適交通状態へ誘導するという動的交通政策を採用する必要がある。
現在のわが国では,私的交通手段の利用へ傾いていっている一般的傾向を止め,公共交通機関利用促進へ逆行させるためにはどのような交通政策を採用すべきかを慎重に検討する必要がある。そして,この動的交通政策をテレビや新聞などで人々に十分認識してもらうよう努めることが政策を成功させる鍵と考える。
3. 自転車利用の促進策とそのPRの方法
現在,わが国の全交通に占める自転車の利用比率は15%強であるが,かつてはこの2倍以上の割合だった。このように自転車利用率が減少した原因は,自動車の普及と自動車交通量の増加による自転車走行空間の占拠と自転車の歩道走行が認められた後も自転車走行路の整備は進められず,自転車の走行環境が悪化したことによると考えられる。
ところで,自転車の利点は,省エネルギー,省空間,環境汚染がなく,安価で,利用者の健康増進にもつながることである。一方欠点は,長距離交通や坂道の多い道路に向かない,そして利用するためには,ある程度の運動能力を必要とする。また,雨天には特定の雨具を必要とすることである。なお,最近は,高齢者などの運動能力の劣る人々の自転車利用を促進するための電池を利用した電動モーター付きの自転車が開発され,市販されている。
現在の都市交通問題は,交通渋滞,交通事故,大気汚染や騒音振動などによる沿道環境の悪化,違法駐車,公共交通の衰退といったいずれも自動車交通に起因するものである。そこで,都市の比較的近距離交通における自動車利用を抑制するための一方策として自転車利用の促進を提案する。
具体的対策として,原則として補助幹線以上の道路には,車道,自転車道,歩道を設置することとして,交通の安全対策として,歩道は現在の嵩上げ方式とし,自転車道と車道の間には中国の道路で採用されているような高さ1mぐらいの分離柵を設けるものとする。そして,都心などの,多くの人々が利用する施設や建築物には自動車の駐車場に関するのと同様の附置義務駐輪場を設置させるように法律によって規制することにする。同時に現在,駅周辺でよく見かける歩道上の駐輪には厳しい罰則を設け,違法駐輪には,自動車の場合と同様に特定の駐輪場へ移送し,罰金を払わなければ,自分の自転車を使用できないシステムにすれば,違法駐輪はなくせると考える。そして,このシステムの中で発生する放置自転車は補修して貸自転車として活用する方法を考えれば,自転車利用をより促進することになるであろう。
なお,自転車利用を人々が喜んで選択する,すなわち自動車利用から自転車利用へ人々の交通手段選択を転換させるためには,前述した自動車利用のマイナス面と自転車利用のプラス面特に利用者個人にとっての利便性や健康面での利点のPRを具体的にテレビコマーシャルや新聞などで現在の自動車の広告と同じ程度の頻度で行い,人々の交通手段選択に関する意識改革を行わなければ実現はおぼつかない。
このためには,公共放送であるNHKで,2で述べた公共交通サービスの内容のPRや公共政策として望ましい交通手段である自転車の利用促進のためのキャンペーンなどのために一日の中の一定時間を使用するシステムを採用すべきと考える。そうでなければ,民放テレビによる自動車のPRのみが一方的になされ,人々の自動車利用が促進されつづけるであろう。
このような自転車利用促進策を採用すれば,以下のような効果が期待できる。
(1) 現在わが国の多くの都市で進行している都心部商業機能の衰退の原因の一つである都心部への自動車でのアクセスの困難性に対する対応策として,かつて使われていた自転車でのアクセス機能の再活用が可能となる。周辺を既存の各種施設で埋められて拡張の困難な都心部の道路空間と既存施設の有効活用につながる。
(2) 自動車交通に起因する深刻な環境問題である騒音やNOx,浮遊粒子状物質などの軽減,さらに交通に伴うCO2の削減につながり,地球環境問題の改善にも貢献できる。
(3) 自動車と違って自転車利用は運動を伴うので,人々の運動不足を補い,健康増進に寄与する。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
