交通計画・評価法

交通計画,交通需要予測の継続的事後評価の必要性

高速道路と自動車、第41巻7号、1998年7月に掲載されたものに加筆した。

 1997年12月の東京湾横断道路,東京湾アクアラインの開通,98年3月末の第2東名・名神高速道路の一部を構成する伊勢湾岸自動車道の三大斜張橋,名港トリトンの開通,98年4月5日の本四連絡橋明石海峡大橋の開通と海によって分断されていた地域を結びつける自動車道の開通が続き,多くの人々の関心が長大橋やトンネルによる海峡横断事業やその観光的機能に集中している。

 その一方で,これらの道路の通行料に関してその高低と事業採算性や利用交通量などの多寡も人々の注目する所となっている。そして,98年4月に10周年を迎えた本四連絡橋,瀬戸大橋(児島・坂出ルート)の利用交通量が当初の予測値24900台の半分の12500台であることに批判が集まっている。(開通19年後の2007年の本四連絡3橋交通量の合計は瀬戸大橋開通時の目標73500台の5割強の38300台である) 批判の多くは,それほど多くの交通需要がないのに何故本州四国間に3ルートの架橋を造る必要があったのか。総額3兆円という橋の建設費を通行料収入で妥当な期間に償還できるのか。橋の機能を活用できる地域開発が実現できるのか。という疑問が投げかけられている。これらの疑問に現在答えることはきわめて難しいといえる。しかし,この児島・坂出ルートには鉄道が併設されており,その輸送量を考慮して,橋の建設効果を検討する必要があることは指摘できる。

 このルートの鉄道利用客数は当初1990年に20300人/日と予測されていたが,実績値によれば,28000人/日となっており,予測値の138%になっている。この児島・坂出ルートの鉄道利用客数は宇高連絡船時代に比較して2.33倍に増え,予測値の138%であるのに対して,自動車交通量が予測値の50%であるのは,この区間の自動車と鉄道の交通サービス水準が,当初の交通需要予測を行った際の仮定と異なり,この区間の交通分担率を鉄道側へシフトさせ,このような交通実績を実現させたと考えられる。

 そして,この架橋によって岡山と香川が結ばれたことによって,自動車や鉄道によってそれまでの船で結ばれていた頃に比べて,いつでも,より短時間で往来することが可能となり,両県民のみならず本州・四国の住民が,相手地域の医療・教育・観光・商業などの各種機能を日常的に利用可能となり,それぞれの生活水準の向上が図られたことはまぎれもない事実である。したがって本四架橋の建設効果の算定においてはこの点を考慮する必要がある。すなわち,架橋のもたらす島という本州から隔離された地域特性上の欠点の解消とそこの住民に与える安心感という心理的効果を架橋の効果に加算する必要がある。このような架橋がもたらす心理的効果の貨幣換算法を開発するために,住民へのアンケート調査を用いて人々が感じている心理的効果の把握とその貨幣換算法に関する研究を早急に行う必要がある。

 このような大規模な架橋による交通網整備は希にしか行われないので,本四架橋の完成は,現在その必要性が増している開発・誘発交通需要の予測法をテストし,その改善を図るための絶好機であると考えることができる。特に児島・坂出ルートは,道路と鉄道の両者を備えているので,OD交通量,経路交通量の予測精度だけでなく,交通手段分担交通量の予測法の精度検討を可能とする事例として特筆されるべきものである。
したがって,社会資本整備に携わる人々は,前記の各プロジェクトの今後の利用交通量および周辺開発事業などの推移を見守り,交通計画や交通需要予測の継続的事後評価を行い,交通計画技術の改善を図って,将来の交通計画の精度向上に努める義務があるといえよう。

 なお,このような交通計画や交通需要予測の事後評価が行われると,交通計画や予測に携わった人々の責任追及が行われることが多いため,その人々の事後評価への協力が得られにくいという問題点があるが,たとえ事後評価で問題点が判明しても,計画策定時にその時点の最善の技術・方法を用いておれば責任を問われるべきではない。しかし,もし事後評価への非協力があれば,社会資本整備に携わる者の果たすべき説明責任こそ追求されるべきである。問題点のある交通計画に関わった人は,その問題点の解決法を明確にし,今後の同種の誤りを犯さないようにすることに協力することこそ社会的責務を果たしたことになるといえよう。

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道路整備計画の評価方法のあり方について

高速道路と自動車、2002年2月号の時評に掲載されたもの

わが国の政府が進めている構造改革の一環である特殊法人改革に関連した道路公団民営化に伴い高速道路建設を凍結し、高速道路の整備計画を見直すべきという議論が行なわれている。この議論の骨子は「高速道路建設の事業採算性に注目し、採算のとれない道路は建設すべきではないので、残された整備計画路線の一部は建設を中止すべきである」ということのようである。

これは、高速道路計画を事業採算性だけで評価することであり、社会基盤施設である道路の効果を過小評価しており、社会において望ましい道路網計画を策定するという観点から見ると大きな問題点を含んでいるといえよう。
また、この議論のもう1つの問題点は、道路の建設方式すなわち公団によって有料道路として建設する方式と高速道路計画とは別々に考えるべきものであるのに、両者を一緒にして考えていることである。

 社会基盤施設計画の評価は、関係する人々の社会的価値基準(公平性、倫理性)、経済的価値基準(効率性)および技術的価値基準(安全性、機能性)などの観点から検討し、それぞれの観点からの評価を総合することによって行なうべきである。また、高速道路と他の社会基盤施設とも比較評価し、高速道路各路線の整備の是非を決定すべきである。具体的には、一定の技術的評価基準を満足する施設を採用することを前提条件として、効率性と公平性のバランスを考えて、最終評価を行なうべきである。効率性の評価としては、社会的費用便益分析を行なうべきであろう。このとき費用としては、建設費、維持補修費、環境影響費用など、便益としては、道路建設のための資材需要や雇用需要などの事業効果及び道路の利用者便益や供給者便益などの施設効果の両者を考えるべきである。

 しかるに、事業採算性で高速道路計画を評価するということは、費用として建設費と維持補修費のみを考え、便益として利用者便益のうちの料金と交通量の積すなわち総料金額のみを考えることに他ならない。利用者便益だけに着目しても、これと同額以上と見積もれる消費者余剰分を無視しており、また事業を行なうことによる事業効果を完全に無視している。この考え方は道路に関連する経済規模を1/2以下に見積もっていることになり、経済を実際の力より縮小均衡へ誘導することになるのではないだろうか。

 そして、公平性の評価としては、1965年から2020~25年頃までの55~60年間の時間経過における各地域住民の高速道路サービスに対する満足度レベルの格差が一定値以内になるようにすべきであろう。この観点から見ると、初期に高速道路を整備した東名・名神高速道路の通過地域の人々は頭初から高速道路の便益を長年にわたって享受し、その沿線開発の比較優位性を形成してきたのであるから、その路線から得られる利益の一部を後進地域の道路建設のために利用するプール料金制は妥当な方式であるといえよう。
道路整備計画を一定期間ごとに再評価して見直し、より合理的なものに修正していくことは必要と考えるが、その際の評価方法はその時点で最も合理的なものを用いるべきである。

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