わが国の道路整備に関する2,3の提案
道路建設 No.638,2001年に掲載されたもの
わが国の道路網整備が集中的に行われた20世紀後半の道路網整備の実態をデータにより分析し、道路網の問題点とその主要な対応策を明らかにし、今後の道路整備のあり方について2,3の提案を行なう。
1. 20世紀後半の道路整備と自動車交通状況とその影響
1960年のわが国における道路総延長は972,688km、その舗装率は3.1%で、このうち一般国道が24,937km、舗装率32.6%、都道府県道が122,018 kmで同7.6%、市町村道が825,733 kmで、同1.5%という状態であったのが、98年には、高規格幹線道路と都市高速道路が7,983km(99年)、一般国道が2.15倍の53,628kmに伸び、このうち幅員5.5m以上の改良済区間は88.6%で、都道府県道は1.05倍の127,911kmで改良済区間は61.9%で、市町村道は1.17倍の968,430kmで改良済区間は50.0%になっている。
また、1965年の道路網延長に対する98年のそれの伸び率を見ると高速自動車国道で34.0倍、改良済の一般国道2.25倍、同都道府県道3.45倍、同市町村道4.83倍となっており、98年の一般道の舗装率は一般国道98.8%、都道府県道94.4%、市町村道71.6%となっている。そして、97年の歩道の設置済み延長は137,000kmで、一般道の歩道設置率は11.9%に過ぎない。
これらのデータから最近の40年間に一般国道以上の幹線道路の整備は大きく進展したが、人々の身近にある都道府県道以下の道路、特に市町村道の整備の遅れが目立っている。
一方、わが国の自動車保有台数は1960年の3,403,800台が年々ほぼ直線的に増大し、99年には71,458,000台までに達している。この結果として、道路混雑は激しくなり、1990年から99年までの幹線道路の混雑状況の変化を見ると混雑区間長が一般国道では1.14倍に増え、全路線長の35.7%に及び、主要地方道では1.03倍に増え、全路線長の23.6%であるのに対して、一般都道府県道では0.61倍に減少しているが、全路線長の17.9%を占めている。
また、交通事故も急激に増加し、1960年の449,917件、死者12,055人、負傷者289,156人が99年には1.89倍の850,363件、死者9,006人(0.75倍)、負傷者1,050,397人(3.63倍)になっている。そして、沿道環境は車両に対する排出ガスや騒音に関する排出規制の強化や公害防止施設の設置にもかかわらず悪化し、98年の沿道地域の大気汚染の環境基準達成率はSPMで36%、NO2で68%に過ぎず、道路交通騒音の環境基準達成率は昼間38%、夜間30%に過ぎない。
さらに、乗用車の爆発的増加は定期バスサービスの衰退を招ねき、1970年のバス輸送人キロは1,029億人キロであったのが、90年の1,104億人キロをピークに98年には904億人キロまで減少傾向が続いている。
2. 車と道路に係わる問題点に対する対応策
前述のように、20世紀後半、1960年代以降のわが国では高度経済成長に支えられてモータリゼーションが急速に進展し、人々は長年の夢であった個人の移動の自由を獲得したが、その代償として毎日の交通渋滞や高頻度の交通事故の危険性に直面し、沿道における大気汚染や騒音・振動などの環境影響の他に地球環境問題などをもたらし、さらに都市のスプロール現象の進展や自動車交通中心の交通サービスに基づく駐車場不足などによる既成市街地、特に中心市街地の衰退や公共交通サービスの衰退などを招ねいている。
これらの自動車利用の問題点を解消するためには、自動車、自転車、歩行者のための道路を適切に整備することがまず必要なことであるが、それと同時に自動車をより高度の安全、快適な輸送手段とすることを目指して、現在、技術開発とその実用化が図られているのが情報技術を活用したITSである。ITS(高度道路交通システム)は、交通渋滞、事故等の削減や利用者の快適性の向上を目的として、最先端の情報通信技術を活用するもので、VICSを中心とするカーナビゲーションシステム、ノンストップ自動料金収受システム(ETC)、安全運転を目指した走行支援システム(AHS)などの開発のほかに、交通管理の最適化、公共交通および歩行者の支援、貨物車やタクシーなどの商用車の運行システムの効率化、道路管理の効率化、緊急車両の運行支援なども目的としている。
もう一つの自動車交通問題への対応策が交通需要管理である。これは直接的には道路渋滞緩和を目指したものが多いが、地球環境問題すなわち温室効果ガスの削減をも目的とするもので、交通需要の時間的、空間的な集中を緩和して、交通施設の有効利用を図るとともに、居住地、従業地、自動車保有などのモビリティ選択を管理することによって自動車交通量の削減を目指すものである。
具体的な方策としては、パーク・アンド・ライド、同・バスライドなどによる公共交通機関への交通手段転換の促進策、混雑区間道路を有料化するロードプライシング、燃料税、車両税の引き上げ、各種交通情報の提供による車両の最適経路への誘導、土地利用規制、各種駐車規制、特定地域への流入規制などが考えられている。
また、中心市街地の衰退に対する対応策としては、都市再開発による大型商業施設の中心市街地への誘導と郊外部での無秩序な大型商業施設の立地規制などが考えられる。そして、公共交通サービスの衰退に対する対応策としては、独立採算制で運営できない路線を、税金を投入した公的運営によって維持する方策がとられている例が多いが、デマンド対応型バスサービスで効率的運営を図る方式の採用がより合理的方策であるといえよう。
3. 今後の道路整備に関する2,3の提案
今後の道路整備のうち、情報化時代への対応、公共交通を考慮した道路施設整備、歩道、自転車道の整備に関する提案を述べる。
(1) 情報化時代への対応
今後の自動車交通においては、情報通信技術を用いたITSによって、車利用者に情報を与えたり、料金をかけたりして最も合理的、効率的な自動車の使い方へ誘導していく必要がある。これを実施するためには、交通の時々刻々の実態を把握するための交通検知機を道路に高密度、たとえば1~3機/㎞程度の間隔で設置する必要がある。同時に、これらの検知機によって得た情報を収集、分析装置へ送るための光通信ケーブルの設置、さらに分析結果を情報として利用者へ提供するための通信・表示システムを備える必要がある。また、自転車利用者や歩行者にも適切な情報を提供するシステムを開発・整備する必要がある。
(2) 公共交通を考慮した道路施設整備
1955~90年にかけて、公共交通の主要な役割を分担していたバス輸送サービスが自動車の普及による旅客の減少のため経営難に陥り、衰退の一途をたどっている。そこで、バスによる公共交通サービスを確保するためには、従来の独立採算制を基本とする公共交通サービスを、社会制度を変えて、公共サービスとして公的に供給する方式に変える必要がある。そして、そのためにバス輸送サービスの基盤施設であるバス停留所、車庫、バス車両の回転場などを道路施設として整備することが考えられる。なお、バス輸送サービスは、公的あるいは民間企業に任せ、これらの基盤施設を利用して低料金で高頻度の輸送サービスを供給できるようにする。
従来は、公共交通といえども独立採算性を原則としているので、バス輸送の基盤施設はバス輸送担当企業で整備するのが普通であったが、道路整備の目的の一つを道路を利用する公共交通サービスの確保を目的とするなら、その上での交通サービスと一体となって初めて道路整備の目的を達成できるので、公共的に行なう道路整備の内容を上述のように拡張すべきであると考える。これは、地域における最も望ましい交通体系の実現を目指した社会基盤施設整備ができるように税金を利用することが、効率的社会資本形成につながり公共の福祉の向上に資すると考えるからである。
(3) 歩道と自転車道の分離促進
すべての交通手段の端末交通手段であり、近距離交通の主要交通手段である徒歩のための歩道の一般道における設置率は前述のように1割強で、しかもそのほとんどが自転車と共用になっており、自動車と比較して両者の交通条件は必ずしもよいとはいえない。そこで、歩行者の交通環境の向上と省エネルギー、省空間、環境汚染のないすぐれた交通手段である自転車の交通空間を確保するために、車道の路肩部分を活用するとともに、車道の車線幅を縮小することによって、車道内に自転車車線を設置することを提案したい。そして自転車の安全のために自転車車線と自動車車線の境界には15~20cmの高さのコンクリートブロックを設置することにすれば、自動車の進入を防ぐことができる。
これは、現在から将来に向けてのより適切な道路空間の活用の仕方を提案するもので、道路空間の利用主体は車両中心でなく、人間中心に考えるべきで、従来の車両中心の考え方を変え、道路空間の各交通手段への再配分を図ることを提案するものである。
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