階層的都市ネットワークと国土政策
本文は5全総策定時に提案した考え方であるが、再度提案したい。
1.はじめに
わが国では,現在約2人に1台強の割合,8千万台まで自動車が普及し,1万Kmに及ぶ高速道路と約2千Kmの新幹線も整備され,人々は道路および鉄道を活用して広域的な経済・社会活動を行い,交流の時代といわれる状況になっている。例えば,三重県と東隣の愛知県との間では,平成3年のパーソントリップ調査の結果によると,毎日鉄道で約5万人の人々と,道路で約9万台の車が往来しており,三重県北部と愛知県西部はあたかも1つの圏域として機能しているように見える。この様な状況下で国土および地域の計画および整備は,どのように進められるべきであろうか? ここでは,国土計画のあり方を国土計画と交通網計画の関係のあり方を中心に考え,その中で県境について考えてみたいと思う。
2.国土および地域構造軸としての道路・鉄道の役割
道路・鉄道の機能には交通機能,空間機能,土地利用誘導機能,地域構造誘導機能などがあり,これらの機能を発揮するよう整備が進められているが,従来あまり考慮されていなくて,これからの時代すなわち,広域交流時代に重視すべき機能は何であろうか。その一つは道路・鉄道のもつ広域的見地からみた地域構造軸の創造機能であろう。
最近注目されている国土軸や地域連携軸はもちろんのこと,都市構造の根幹を成す都市軸も,道路網・鉄道網なしに形成することはできないので,交通網計画においては将来のあるべき国土構造や都市構造を実現することを目指すべきと考える。限られた国土に快適な居住空間を創造するためには,その骨格となる合理的な地域構造を形成することがまず第一に要求されることであるから。
3.目指すべき国土構造と交通通信網
わが国においては,昭和37年の第1次から平成10年の第5次までの全国総合開発計画が策定されてきたが,平成17年に国土形成計画法が制定され平成20年2月に新しい国土形成計画が国土審議会で承認された。新しい国土形成計画の基本的考え方は以下のようになっている。
人口減少社会、急速な高齢化の進展,グローバル化の進展と東アジアの経済発展、情報通信技術の発達、価値観の変化・多様化に対処するために,新時代の国土構造の構築に当たっては、前述したような環境の変化を足がかりとして、広域地方計画区域等を一つの単位とする広域ブロックが、東アジアを始めとする諸地域との交流・連携を進めつつ、その有する資源を最大限に活かした特色ある地域戦略を描くことによって、地域全体の成長力を高めていく。これによって、各ブロックが、活力ある経済と豊かさが感じられる生活環境の実現を目指し、自立的に発展する国土構造への転換を図ることとする。多様な特色を持つこれらのブロックが相互に交流・連携し、その相乗効果により活力ある国土を形成していく。このことにより、一極一軸型の国土構造の是正につなげていく。
また、山紫水明の景色や都市のにぎわいなど互いに異なる特色を持つ地域が、それぞれの魅力を発揮するとともに、相互に補い合って共生し、重層的に国土を形成するという地域間の互恵関係を維持発展させつつ、良好な自然環境や美しい景観の形成、安全かつ快適でゆとりある生活空間の形成、環境負荷の低減、ユニバーサルデザインの理念に基づく取組の推進等を図り、美しく信頼され質の高い「日本ブランドの国土」へと再構築していく。これにより、美しさと、安全面や環境面も含めた暮らしやすさを兼ね備えた国土を形成していく。
このため、広域ブロックの外に向かっては、「アジアに開かれた国土」を目指して、それぞれのブロックと東アジア等諸地域との交流・連携を進めるとともに、東アジアの中での地域の個性と魅力、国際機能等をとらえ直していく。これによって、太平洋のみならず、重要性の高まる日本海及び東シナ海の活用に向けた広域的な取組の推進等、東アジアを意識する国土構造に転換を図っていく。
各広域ブロックの内部では、ブロックの成長のエンジンとなり得る都市及び産業の強化を促していくとともに、相互依存・補完関係にあるブロック内の各地域が、互いに交流・連携を促進し、固有の文化・伝統・自然条件等に根ざした多様な地域特性を発揮していく。これによって、人口減少・高齢化が進展する中でも安定した経済成長を図っていく。また、各地域において多様な主体の協働を促進し、経済力だけでなく文化面や社会面も含めた地域力(地域の総合力)の結集を図るとともに、安心して住み続けられる生活圏域を形成していく。
これらにより、人々の国土に対する空間的視野を、市町村から広域の生活圏域へ、都道府県から広域ブロックへ、日本国土から東アジアへと拡大していく。__以上の考え方に基づき、多様な広域ブロックが自立的に発展する国土を構築するとともに、美しく、暮らしやすい国土の形成を図ることを、本計画の基本的な方針とする。
自立的で特徴の異なる複数の広域ブロックからなる国土構造を構築し、将来にわたる国内外の様々な変化にも柔軟に対応することが可能となる多様性を国土上に保有することによって、我が国の成熟期にふさわしい「国としての厚み」を増していくことが、我が国の将来像として好ましい方向であると考えられる。国土形成計画案ではこのように公表されている。そして,望ましい国土構造として,太平洋ベルト地帯の形成で東京一極集中につながった国土構造を転換し,自然や地理,文化的条件で共通性があり,人々の価値観に応じた就業と生活を可能にするための,日本列島を縦断する西日本国土軸,北東国土軸,日本海国土軸,太平洋新国土軸の4つの新国土軸が5全総に引き続いて提案されている。しかし,これではまだ国土の各地域の具体的な構造は明確に示されていない。
ところで,国土の基本構造は,全国に各種機能をもつ都市をどのように配置し,それらを交通網や通信網でどのように結びつけるかによって決定される。そして,各都市においては都市内に各種都市機能を分散配置し,それらを道路や鉄道および通信網で連絡することによって都市構造が決定される。このように国土構造や地域や都市の空間構造を決定する基本的施設が,道路や鉄道などの交通網である。
それでは,国土構造の決定はどのようにすべきであろうか。基本的手順としては,まず都市の配置を決定し,それらを結ぶための道路網や鉄道網を考えるべきであろう。
わが国の総合開発計画は,国土の均衡ある発展,多極分散型国土の形成を目指してきたが,このような目標をどのような具体策で実現するかという点では,必ずしも明確な最終目標は示めされていない。そこで,ここでは国土の均衡ある発展の最終目標として,ドイツの国土計画の最終目標をわが国でも採用すべきであると提案する。
ドイツの国土計画の目標は,ドイツ国民が国内のどこに住んでも,均衡のとれた同じような水準の生活環境を保証することである。ドイツの国土計画理論は,ミュラーやチューネンなどに始まり,クリスタラーによって完成された中心地理論に基づくものである。クリスタラーの中心地理論は,地域社会の中心的機能が集中した都市がどのような原理に従って分布するか,その機能,規模,数,配置などについて検討した。クリスタラーは市場町から大都市に至る中心地を,規模,支配力,中心性によって9段階に分類した。そしてイスバリーは中心都市を4段階に区分し,この都市区分が現在のドイツの国土計画の基本となっている。
この4分類は,上級,中級,下級および小中心地からなり,小中心地は7Km以内の間隔で存在し,人口は1千人以上で,周辺地域を含むと6千〜8千人で,学校,幼稚園,できれば鉄道駅,車の修理工場,医院,薬局、金融機関の営業所などが配置されている。
下級中心地は12〜15Km以内の間隔で存在し,バス,列車,車で20分以内の地点にあり,人口は6千人,周辺地域も含むと1万人で,上級学校,上質の商店,金融機関の支店(支社),小病院などが配置されているものである。
中級中心地は30Km以内の間隔で立地し,バス等で30分以内の地点にあり,人口は1万5千人,周辺地域も含むと3万5千人で,州行政機関,高等専門学校,州裁判所,商工会議所,百貨店などが配置されているものである。
上級中心地はバス等で50分以内の間隔で立地し,人口は周辺地域を含めて少なくとも上級b10万人以上,上級a50万人以上の大都市で,上級行政機関,州最高裁判所,遠距離交通のターミナル,大規模文化施設センター(劇場,オーケストラ,博物館,大学)などが配置されているものである。
地域活動の活性化と発展を図るために,中心地と周辺農村地域間および中心地相互間を交通・通信・エネルギー供給などのネットワークで結合する必要がある。このようにして,ドイツでは全国土を都市とその連絡施設からなる都市連絡網でおおうことにより,人々は国土のどこに住んでも,快適な職場と生活環境を享受できるようになっている。すなわち,多極分散型の国土を作ることができている。
したがって,わが国においてもこれと同様の都市ネットワークで全国土をおおい,全国どこに住んでもほぼ等しい公共サービスを享受できるような国土の形成を目指すべきであろう。
4.わが国における階層的都市ネットワークのあり方
わが国では,新全国総合開発計画において,日常生活圏である1次圏,いくつかの1次圏から構成される中部圏などの広域圏である2次圏,さらに2次圏の集合である3次圏が全国に当たるという地域構成が考えられた。しかし,1次同志および1次と2次間の相互連携を図り,全体の機能を向上させるという考え方は希薄であったようだ。そのような中で,昭和59年に策定された東海環状都市帯構想で,名古屋の50Km地域にある諸都市を東海環状自動車道で結び,それぞれの機能を相互に補完し合うという考え方が採用されたことは画期的なことであったといえよう。
ここでは,このような考え方をさらに進めて,ドイツの都市ネットワークシステムをわが国でも採用することを提案する。一例として,わが国においてもドイツと同様に都市・地方部を次のような5種類に分類することを考える。
1.大都市(人口100万人以上)
2.中枢都市(人口50〜100万人)
3.中核都市(人口20〜50万人)
4.小都市(人口5万〜20万人)
5.地方部
これらの5種類の都市と地方部でわが国の国土をおおい,それぞれの都市にふさわしいサービス機能を分散配置し,全国どこに住んでもほぼ等しい公共サービスを享受できるようにすることを目指す。例えば,大都市圏には100Km圏のサービス圏をもつ高度の各種サービス施設を整備し,中枢都市には50Km圏のサービス圏をもつサービス施設を,さらに中核都市には20Km圏のサービス圏をもつ施設を,そして小都市には5〜10Km圏のサービス圏をもつ施設をそれぞれのサービス圏内の都市に分散配置し,各都市を交通網で結びつけお互いに利用し合えば,各都市にワンセットですべての機能を整備しなくても,快適な生活環境を享受することが可能となる。
各都市がもつべき機能には行政,司法などの官公庁サービス,商業サービス,教育,娯楽,文化,体育,医療などの各種サービスがあり,これらのサービスにはそれぞれ一日生活圏,週間生活圏,月間生活圏,年間生活圏で利用するものがあり,一般に年間生活圏で利用するものが最も高度のものとなる。それぞれのサービス施設はそのサービス圏をもっており,高度のサービス施設ほどそのサービス圏は大きくなるのが普通である。
一般に都市の規模が大きくなるほど人口が多く,商業・工業活動も活発となるため,道路,鉄道などの交通施設の結接点が存在するようにすべきで,現実にそのようになっていることが多く見られる。したがって,規模の大きい都市に広域サービス圏をもつ高度のサービス機能を立地させることが,圏域内の利用者にとってもそのサービスを利用しやすくすることになり好都合である。しかし,1つの都市のみに集中的に各種施設を立地させることは,面積制約などのため難しくなるのと,その都市のみの利便性があがって,周辺都市との格差が広がることになるので,同程度の周辺都市へも適切にサービス施設を分散配置し,異なる機能に関してお互いに補完し合うようにすべきであろう。
このような都市ネットワークをつくっておけば,阪神大震災のような自然災害がある都市を襲っても,その都市と連携関係にある都市群が協力すれば,被害都市の各種機能の補完と復興に大いに役立ち,早期の都市機能の回復が可能となろう。
このような都市ネットワークを国土計画として構成する場合,一群として考える都市群の大きさはどの程度とすべきであろうか。一般に,居住者が1つの生活圏として一体感をもてる圏域の大きさは,中心都市の1時間圏であると考えられる。また,人間の生活圏域には1日単位,週単位,月単位,年単位などのものがあるが,最も基本的な生活圏は月単位までの生活の場で,それが1時間圏という形のもので構成され,基本的な地域計画の単位になると考えられる。したがって,中心的都市の1時間圏を国土計画の基本単位として,そこに含まれる都市と地方部で圏域を構成し,圏域内構造を支える各種交通施設配置やその他の社会基盤施設の圏域内都市間での相互利用計画を策定すべきであると考える。
このような都市ネットワークを分断する形で行政区境界である県境が引かれている。一般に,県が提供する公共サービスはこの県境で区分されるが,それ以外の人々の一般的経済・社会活動は,この県境とはほとんど無関係になされる。したがって,国土計画としては人々が県境を意識することができるだけ少なくなるように都市ネットワークを組み,県境地域の人々も中心地その他と全く差異のない生活を送れるようにすることを目指すべきであると考える。そして,県が提供する公共サービスにおいても,県境を挟む両県においてできるだけ差異のないようにすべきであろう。
5.むすび
ここでは,望ましい国土構造として採用すべき階層的都市ネットワークについて,ドイツの実例を紹介した後に,わが国での都市ネットワークの基本構成について述べた。そして,この都市ネットワークにおいて県境をどのように取扱うべきかについて考察を加えた。なお,都市ネットワークにおいて,隣接する都市間でどのような機能を分担するかは,各都市の歴史,自然,地理的な諸条件に基づいて最も適切なものを配置するように決定すべきと考える。
参考文献
祖田 修(1984):西ドイツの地域計画,大明堂,PP.47-77
河上省吾(1995):基本構造としての階層的都市ネットワーク形成,21世紀の中部圏(日本計画行政学会中部支部編)中日新聞本社,PP.181-184
国土交通省(2008):国土形成計画(全国計画)(案)
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