交通需要予測

交通需要予測法の問題点と改善の方向

(1)交通需要予測法の問題点

現在,一般に用いられている交通需要予測法の問題点を列挙すると以下の通りである。

交通需要予測法は,コンピューター計算能力の進展に伴い,多様な個人属性や潜在意識構造の交通行動に与える影響や多時点反応の相互関係などを分析できるまでに発展してきているにもかかわらず,実際の交通需要予測では,利用可能なデータの制約のため,集計四段階推定法か非集計モデルの中のロジットモデルが用いられているに過ぎない。現行の交通需要予測法では,交通が土地利用に与える影響,すなわち交通施設整備が土地利用に影響を与え,開発交通量をもたらす現象はほとんど考慮されていない。そして現行の予測法では,交通施設整備による交通容量増加に伴い,新たに生ずる誘発交通量も考慮されていない。また,四段階推定法では,一般に交通の発生・集中量が交通サービス水準と無関係に予測されているという問題点がある。

交通量配分モデルとしては,均衡配分モデルが理論的に望ましいにもかかわらず,近似解法の分割配分法が用いられることが多い。また,交通量配分モデルで利用される道路リンクの所要時間関数が,各道路網上での観測データに基づいて推定されたものでないため,精度がよくないことが,配分交通量の精度を悪くしている。そして,本来は車種別に所要時間関数を設定すべきであるのに,ほとんどの場合,1車種としているのも問題点である。交通需要予測法そのものの問題ではないが,過去の予測結果の実績値への適合度を検討しようとしても予測法の内容と用いられたデータの記録が整理保管されていないことが多いという問題点がある。需要予測法の改善のためにはその利用結果を照査することが,第一歩であるので,交通需要予測を行ったら,その方法と用いたデータと基本的仮定を記録して残し,後世の歴史的批判にさらし,予測技術の進歩に貢献することを目指すべきである。

(2)交通需要予測法の改善の方向

 一般に用いられている交通需要予測法には以下のような改善が必要と考える。

・長期的な交通需要予測においては,その前提条件となる常住人口や就業および従業人口,就学,従学人口などの予測精度が交通需要予測の精度を左右するので,これらの交通発生の関連人口,特にその地域分布の予測を的確に行うことが重要である。

・交通施設整備が土地利用に与える影響によって発生する開発交通量や交通容量増加に伴う誘発交通量を予測法に組み込み,これらを予測できるようにする必要がある。

・交通の発生・集中量予測モデルに交通サービス水準の影響を反映する機構を組み込む必要がある。

・特に,交通整備プロジェクトの社会的合理性を説明するための手段として期待されている費用便益分析における施設を利用することによる便益である施設効果を精度よく予測するためには,交通施設整備による開発・誘発交通量を的確に推計することが必要不可欠である。

・短期的な交通需要予測を必要とする代表例として,交通需要管理(TDM)についてみると,まずTDMのための交通対策として用いられる各種対策の効果を検討できる交通需要予測法を開発する必要がある。すなわち,1つの目的トリップを構成する交通手段連鎖をモデルに表現し,個々の手段に対する交通対策のトリップ全体への効果を推定できるようにし,また,人の1日のトリップ連鎖をモデルに表現し,たとえば通勤交通対策の1日の交通全体への影響を明らかにできるようにする必要がある。

・交通混雑を解消するための方策や環境影響の評価方法を開発し,その効果を検討するためには,交通需要予測モデルに時間軸を導入し,各路線ごと,時間ごとの車種別の交通状況を予測できるようにする必要がある。

・交通需要予測においては,どのようなデータ,情報が利用可能かによって用いる方法が異なってくるので,交通実態調査法と需要予測法を一体的に組合わせて,将来予測を行う必要がある。特に非集計モデルでは,3400から1000サンプルのデータがあればよいので,この利点を大いに活用し,それぞれの需要予測の目的に適合した調査を設計し,それを実施した結果に基づいて将来予測を行なうという方式を採用すべきである。このとき,調査,予測作業の成否は,最初の調査表の設計にかかっていることに留意する必要がある。

・交通実態調査においても,交通の意志決定の際の交通主体の意識まで調査し,目的地や手段,経路の決定過程をモデル化し,これらの予測に関して,将来の価値観の変化にも対応できるようにすべきである。

     交通行動選択における集団内の他者,たとえば家族構成員などとの関係を考慮できる需要予測モデルを開発する必要がある。また,社会の一般的風潮の交通行動への影響,たとえば低公害車利用という流行への同調・非同調といった他者との相互関係を含めた行動分析や説得と誘導などの人間行動をモデル化した需要予測法の開発が必要である。

     自動車の利用削減や公共交通利用促進を目指すモビリテイ・マネジメントに関して、交通サービスについてのアンケート形式やPR誌などによるコミュニケーション方式の自動車利用削減や公共交通利用促進効果とその継続性の普遍性について検討する必要がある。

     動的交通政策と動的交通需要予測の必要性:一般に望ましい交通サービスを備えた社会を実現するためには、交通実態調査に基づいてその時点における目標年度の望ましい交通サービス状況を設定し、それを目指した交通政策を実施するという手順を踏むが、その実現には時間がかかる。このとき年月の経過とともに人々の価値観が変化し、望ましい交通サービスが変わることもある。このような状況に対処するためには、常に変化する社会における最適交通サービスシステムの探求とその実現を目指す動的交通政策を採用する必要がある。このための動的交通需要予測手法の開発が必要である。

・交通計画や交通需要予測の記録を残し,できるだけ公表し,それらの想定していた年度に到達したら,実績資料に基づいて計画の実現性と妥当性および需要予測の妥当性の検討を行うべきである。そしてその成果によって交通需要予測法の改善を図るべきである。

・交通施設は社会資本であり,社会の経済・社会活動のために有効に機能することを最終目的とする施設であるので,需要予測を含むその計画内容の情報は公開されるべきである。そして,交通計画に情報公開に耐える内容をもたせるためには,その時点での最善の技術・方法により計画を策定する必要がある。このために,交通需要予測においても,最善の方法を用いて予測を行う必要がある。

参考文献

1)北村隆一:「交通需要予測の課題:次世代手法の構築にむけて」,『土木学会論文集』,No.530IV-30 pp.17-301996

2)原田 昇:「交通需要予測の今日的課題」,『交通工学』,Vol.32,増刊号,pp.4-91997

3)森川高行:「需要予測手法の最新動向と展望」,『交通工学』,Vol.32,増刊号,pp.10-151997

4)佐々木邦明:『潜在的評価構造の差異を考慮した離散型選択モデル』,(京都大学学位論文),1997

5)谷口綾子・藤井聡:公共交通利用促進のためのモビリテイ・マネジメントの効果分析、土木学会論文集D Vol.62 No.1 pp.87-9520062

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交通需要予測法の変遷

交通需要予測法がその成立から今日までどのように発展してきたかを用いられる方法によって区分し,それぞれの特徴を明らかにする。ここでは,交通需要予測法の発展段階を表−1に示すように時系列モデル,物理学モデル,非集計行動モデル,心理学的計測モデル,交通活動分析,動的分析,交通行動モデルの7段階に分けて述べる。

(1)時系列モデルの時代

これは,交通需要量の過去のデータを時系列データとして考え,その将来値を予測するもので,最も古くから用いられている方法である。これは,予測対象である交通需要の発生機構を考慮せず,換言すれば,発生機構は現状のまま推移すると考えて将来を予測する方法であるといえよう。したがって,社会情勢に変化がない場合の近未来の予測にはよいが,それ以外に用いることには問題がある。

(2)物理学モデルの応用の時代

近代的な都市交通計画の策定方法は,1956年頃アメリカ合衆国で確立された。その代表的成果が1955年に始まるシカゴ地域輸送研究(CATS)である。これらの北アメリカの大都市圏における大規模な土地利用・交通研究を行うための交通需要予測モデル,四段階推定法が開発され,やがて連邦道路局(BPR)によって交通計画の基本的プロセスとして制度化され,手引書が発行された。

初期の交通需要モデルは,交通分析ゾーン単位のデータで定式化され,そのパラメータが推定されるのが一般的で,集計モデルとよばれている。そして,用いられた理論は地域間交通量予測モデルに用いられた重力モデルに代表される物理学理論の社会・経済現象への適用が主流であった。

表―1 交通需要分析およびモデルの発展経緯

時代の名称

時 期

方法の特徴

時系列モデルの時代

1960年代以前

回帰分析

社会物理学の時代

4段階推定法)

1950年代中期~

1960年代後半

ゾーン単位の集計モデル

交通現象への物理学的理論の応用

非集計モデルの時代

1960年代後半~

1970年代前半

効用関数の導入

データ収集における経済性の改善

心理学的計測の時代

(意識モデル)

1970年代~

1980年代前半

知覚の計量化

人の交通・活動分析の時代

Activity based approach

1970年代中期~

1980年代中期

交通需要の派生的性質

空間,時間,人間関係制約

動的分析の時代

Dynamic approach

1980年代中期~

パネル調査

縦断的(longitudinal)調査

交通行動分析の時代

Micro simulation

1990年代~

SPRP調査,異種データの混合

多変量構造解析手法

(3)非集計行動モデルの時代

1960年代後半から集計モデルの欠点が種々指摘され,データ収集における統計的効率性や,モデル構築の経済性の改善,多方面にわたる交通政策への適用可能性といった特徴をもつ交通需要予測モデルの開発が要請されるようになった。この時期には,エネルギー節約,公害防止,公平性への関心が増加し,交通を需要面から管理しようという戦略が都市交通計画策定の主要課題となったこともこのような傾向を一層促進することになった。ちょうどこの時期に離散選択モデルの開発がなされ,これが交通需要予測に適用され多くの成果を上げた。このモデルの主要な適用分野は交通手段選択問題で,これにより交通手段選択モデルの精緻化が図られた。そして,この手法が目的地選択や出発時刻選択などにも適用されたが,交通現象の把握方法の基本は変わらなかった。すなわち,交通をトリップ単位に分解して取扱い,交通は活動の派生需要であるという特性が取上げられることはなかった。

(4)心理学的計測モデルの時代

交通主体が交通手段を選択する際に影響する主要な要因は,旅行時間や旅行費用であるが,これら以外に快適性,利便性,信頼性,安全性などの交通手段特性も重要な要因である。しかし,快適性,利便性等の交通システムに関する心理的特性を,初期の交通需要モデルに導入することはできなかった。これは,交通システムの特性の心理的測定指標の明確な定義が必要であったのにもかかわらず,そのような特性の計測方法が明らかになっていなかったからである。このような状況の中で,個人の行動分析に重点を置いた離散選択モデルの開発が,個人の心理的評価を交通行動モデルに導入することを可能にした。1970年代前半に,交通計画の分野の研究者達は,人々の性向と知覚についての計量的データを得るための手法が心理学の分野で開発されつつあり,また市場調査の分野で実用例があることを知った。こうして,交通計画の研究者達は,交通システムに対する消費者の知覚,性向,信念などを計量するための心理学的尺度法の採用に取組み始めた。

(5)人の交通・活動分析の時代

人の交通は,何らかの活動を行うために生ずるもので,一般に交通需要は,個人が空間的に離れた場所で実施したい活動へ参加するために派生するものであると定義できる。このような考え方に基づく交通と活動の関係すなわち,交通需要の派生的性質を明示的に取扱う方法が交通・活動分析といわれるものである。この方法においては,交通だけが交通需要分析の中心でなく,個人間の相互作用,空間・時間制約,世帯構造,個人の役割などの項目などが,人の交通・活動分析の説明要因となった。

この時代に開発された交通・活動分析モデルにより,交通政策と人々の生活行動との関係をきめ細かく表現することは可能となったが,これを将来の都市交通計画に直接的に応用するということはモデルの操作性,信頼性の点からむつかしいといえよう。

(6)動的分析の時代

 人の交通・活動分析の進展とともに,新たな問題点が指摘されるようになった。その1つは交通行動を一時点における観測要因のみによって分析することでよいのかという疑問点である。実際の人々の交通・活動は,各個人が考え得る時間内で意思決定がなされていると考えられるので,一時点の観測要因によって人の交通行動のすべてを表現することには限界がある。活動の周期性や1日を越えた活動実施の決定過程を考慮するために,週単位,月単位,季節単位,年単位の分析が行われるようになった。

そして,活動と交通の時間的な相互作用や時間経過に伴う変化状況を分析する動的分析が行われるようになった。一時点の観測データに基づく静的分析に対して,動的分析では多時点の観測データに基づいて分析がなされ,代表的なものとして時系列分析とパネル分析がある。時系列分析は異なる時点の統計量を用いる分析であるが,各時点では静的分析と同様の仮定に基づいて分析が行われるので,交通行動の時間的変化をとらえることはできるが,交通行動の要因と交通現象との間の関係がどの程度の時間間隔でどのように変化するのかを分析することはできない。これに対して,パネル分析では,異なる時点の同一個人の行動を追跡するもので,異なる時点の交通行動を変化させる要因とその影響を受けた交通のデータをすべて把握して両者の関係を分析し,交通行動の動的分析を行うものである。しかし,このような調査・分析は,調査・分析期間の長期化,必要経費の増加が必然的で,披験者の協力も得にくくなる可能性が大きくなるので,実際の調査にこれを応用できる分野は限られるであろう。

(7)交通行動分析

1990年頃から,計算機能力の進歩により,複雑な統計解析手法も比較的容易に利用できるようになった結果,多様な個人属性や,潜在的意識構造や時間経過などの個人の交通行動に与える影響を分析できるようになった。すなわち,各個人の交通行動を時間的,空間的枠組みの中で,与えられる情報や施設条件を考慮して分析するモデルを開発し,将来予測においては,各個人の行動を計算機上で再現し,これらを集計して全体の交通現象を予測するというマイクロシミュレーション手法を用いる方法が試みられるようになった。

また,従来存在しなかった交通施設や交通サービスに対する需要予測のために,仮想状況下の選好を質問する方法,SP(Stated Preference)調査法が開発され,これにおいては,仮想状況を紙面やコンピューター画面やバーチャルリアリティなどによって説明し,人々の選好を順序づけ,点数,支払い意志額として調査し,これに基づいて交通需要が予測される。なお,実績の選好結果を調査する方法をRP(Revealed Preference)調査という。

参考文献

1)Pas.E.I.Is Travel Demand Analysis and Modelling in the Doldrums? Paper presented at the 1988 Oxford Conference on Travel and TransportationOxfordU.K1988

2)磯部友彦:『人の交通・活動関連分析に基づく交通需要推計法に関する研究』,(名古屋大学学位論文),1989

3)森川高行:「需要予測手法の最新動向と展望」,『交通工学』,Vol.32,増刊号,pp.10-151997

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交通需要予測の意義とその実例

はじめに

新しい交通施設の建設や交通運用方式の開発に際しては,それぞれに関する交通需要を予測する必要がある。ここでは,まず交通計画および交通運用における交通需要予測の果たす意義を明らかにし,次に交通需要予測の実例と交通需要予測手法の選択について述べる。

1.交通計画における需要予測の意義

1)計画の必要性

交通計画の策定に際しては,まず計画の必要性すなわち交通施設を建設することの必要性を明らかにすることを要求される。交通施設に対する要求水準は対象地域において最低限整備されなければならない,いいかえると,シビルミニマムとして要請される水準を最低水準とし,その地域の利用者が需要する整備水準がそれ以上であれば,彼らが満足する整備水準の施設を供給する必要がある。交通施設の整備水準のシビルミニマムはどのように決定されるべきであろうか。一般には,環境のあるべき状態を規定した環境基準のように,一定の生活水準を確保するために必要な整備水準をシビルミニマムとして設定すべきである。利用者の需要水準は将来の需要予測によって推定することができる。したがって交通施設の必要水準を決定するためには,需要予測手法が重要な役割を果たすことになる。

2)交通計画における需要予測1

交通計画においては,対象とする交通施設に対する要請の度合を的確に予測すること,すなわち需要が今後どのように量的拡大と質的変化を来たすものであるかを予測することがきわめて重要である。これは,計画を策定するためには,交通施設に対する過去及び現在の需要に関する資料に基づいて,将来の発展性を予測し,交通施設に対する将来における需要を予測し,それに基づいた施設の配置,規模,機能などを検討しなければならないからである。ゆえに交通計画においては,需要予測が不可欠であり,この予測精度が計画内容の精度を左右する。

一般に1つの交通計画は,いくつかの部分の計画の集合によって成り立っており,長期,中期,短期というような段階的な構造になっていたり,総合交通計画のように道路,鉄道,港湾,空港計画といった並列的要素から構成される場合もある。このような場合,長期の大規模な計画になるほど需要予測の意味は重要性をもつ。しかし,都合の悪いことに,長期の大規模な計画になるほど,その予測に介入する不確定性はより大きくなるという問題点がある。交通計画における需要予測にあたって留意すべき事項をまとめると以下のようである。

①未来には論理的に推測可能な部分と,推測不可能な偶発的部分とがある。したがって需要予測においては前者を中心に予測し,後者についてはその可能性を明らかにすべきである。

②未来には経験の中の未来と経験をこえた未来とがある。すなわち,比較的短期間の予測では,過去の経験によって将来を見通すことができ,経験に基づいて比較的容易に将来を予測することができる。しかし,予測期間が長くなると経験の及ぶ範囲が狭くなって,経験のみでは説明がつかない部分が多くなってくる。将来の需要に影響する要因には,社会及び経済機構ならびに人間,社会の意思の多様性,価値観の変動などがあり,これら各種要因の需要に対する影響度が,予測対象及び期間によって異なるので,それぞれに適した予測方法を用いる必要がある。

③計画においては,需要予測の結果を参考に目標値が決められ,最適計画が策定される。交通施設に対する需要は,供給が需要を誘発する傾向が強いので,需要予測においても,この特性を考慮する必要がある。また交通計画における目標値は,その達成に努力するのでなければ実現されない場合がある。

④需要予測に際しては,まず需要の発生機構をモデル化し,これをデータにより検討する。このモデル化においては,現実を完全に表現することは不可能であるので,必要とされる予測精度を得るのに必要かつ十分な精密さをもつようにすべきである。また,事象によっては,部分より全体値の予測精度がよい場合もあるので,部分の予測値を全体の予測値(コントロールトータル)によって修正することがある。

2.交通運用における需要予測

交通運用とは各種交通施設を運用することで,このための交通需要予測は,交通施設を有効に機能させる方策を立案するための事前情報を与えることである。したがって,一般に短期間の詳細な情報たとえば時々刻々の各路線の交通量や渋滞状況などを予測することが要求される。交通計画のための需要予測が,ハード的施設整備の効果を中心とする長期,マクロ的予測で,交通の発生・集中,分布,分担・配分といった全過程を対象とするのに対して,交通運用のための予測では,ソフト的施策の効果,例えば交通需要管理のためのプライシング効果などを中心とする短期,ミクロ的予測が多く,そのほとんどが交通の分布,分担・配分過程を対象とする。多くの場合、車両1台ごとの地点ごとの挙動を予測する必要があるので、シミュレーション技術が用いられることになる。

3.交通需要予測の実例

 ここでは、交通計画における需要予測の実例について述べる。

①東海道新幹線の旅客輸送量予測と実績値2

 東海道新幹線輸送量の予測値として,開業5年前の1959年と開業22年経過した1986年に実施された予測結果を示すと,1のようになっている。(図1を挿入できないことをお詫びします。)'59年の予測は,国鉄が行ったもので,国民所得から全国鉄旅客輸送量を求め,それから東海道旅客輸送量をそれぞれ単回帰モデルによって求めている。さらに在来線と新幹線の分担率により新幹線輸送量を求め,さらに高速道路への転換交通量と新幹線による誘発交通量を考慮して新幹線輸送量を予測している。そして,'86年の予測は,国鉄の再建管理委員会が行ったもので,このとき利用されたモデルはハーバード大学のメイヤー教授のMETSMacro Economic Transport Simulator)モデルを改良したもので,三全総,新経済社会7ヶ年計画などの輸送政策の予測に利用されたものである。モデルの詳細は公表されておらず,経済成長率は4%程度を想定していたと言われているが,予測結果は減少傾向を示している。このような予測値に対して,東海道新幹線の輸送実績は以下のような推移を示している。

 196410月,東海道新幹線は東京〜新大阪間を所要時間約4時間,1時間あたりひかり1本,こだま1本のダイヤで開業し,約半年間の運行で39億人キロという輸送実績を残した。翌1965年には,当初計画通りの東京〜新大阪間3時間10分にスピードアップするなどのサービス向上と共に,この年以降の10%を超える経済の高度成長に支えられ急速な増加を続け,1969年には228億人キロに到達している。さらに翌年には大阪万博が開催され,対前年度22%増,総輸送量279億人キロに達した。

1971年度には万博輸送の反動で,初の前年度割れとなったが,1972年には山陽新幹線の岡山までが開業し,1975年には博多開業を迎え,1973年のオイルショックに伴う景気の後退の最中においても輸送量を着実に伸ばし,1975年には352億人キロに到達した。この輸送量はこの後バブル初期の1988年度まで東海道新幹線の輸送の最高記録として残ることになる。

 1976年以降は,この年に実施した約50%の運賃値上げをはじめとして,1986年までほぼ毎年のように運賃が引き上げられた。このため運賃水準は86年に1975年の2.4倍,消費者物価指数で割り戻した実質ベースでも1.5倍にのぼった。このような値上げやストなどによる国鉄離れと,自動車の急速な普及と道路整備などに伴い,経済成長の中においても輸送量は増加せず,一定水準を保つ結果となった。1985年には大惨事となった日航機墜落事故が発生し,翌年ひかりの主流として100系型の新型車両が投入されると同時に,最高時速が230km/hに向上し,東京〜新大阪間の所要時間が2時間56分に短縮されたことなどから,輸送量は1985年度以降再び上昇に転じている。1987年には民営会社JRが発足し,企業努力と,折からのバブル景気に支えられて,1988年度には対前年度13%増を記録するとともに,1991年度まで順調に増加し,418億人キロに達した。民営化以降の伸びはこの間,35%増加した(年率にして約6.2%)ことになる。バブルの崩壊以降は1992年ののぞみの運行によるスピードアップにもかかわらず,阪神・淡路大震災の影響も含め,対前年マイナス輸送量を1994年度まで続けている。

 実績値と予測値の乖離は,開通直後は過大予測で,3年後からは過小予測となっており,1986年以降も過小予測となっている。開通直後の過小予測は,新幹線の効果が一般に認識されていなかったことによるものと考えられる。1966年以降の過小予測は,予想経済成長率を6.4%6670年),5.0%7175年)と設定していたのに対して,実績成長率は1213%6679年),-1.410.7%7175年)であったことが原因と考えられる。86年以降の過小予測は,バブル期の輸送構造の変化によるものと考えられる。

 

②東名・名神高速道路の交通量予測3

 日本道路公団において,1972年に71年のOD調査結果に基づいて,75年と85年の各隣接IC間の断面交通量を予測している例を検討する。ここでは,発生・集中,分布・配分交通量を予測し,(料金/時間差)転換率モデルによって,高速道路利用交通量を予測している。そして,新設道路による走行時間の短縮によるグラビティモデルから求まるOD交通量の増加分を誘発交通量と定義している。

 東名・名神高速道路の75年の予測値を見ると,西宮〜豊中間の実績値の3247%という過小予測以外は,すべて実績値の102213%の過大予測になっている。多くの区間は実績値の115140%である。そして85年の予測値を見ると,西宮〜尼崎間の実績値の77%の過小予測以外はすべて実績値の105200%で,多くは150190%である。すなわち,15年後の予測精度はあまりよくないことがわかる。

 次に,1982年に80年のOD調査結果に基づいて85年,90年,2000年の隣接IC間の断面交通量を予測しているものの85年と90年を検討する。予測方法の構造は前者と同じだが,転換率式を実態に合うように修正したことと,交通量配分で高速道路利用の第3経路までを考えて予測している点が改良されている。85年の予測値では,尼崎〜豊中間の実績値の96%,一宮〜小牧の90%,小牧・春日井・名古屋の83%82%,浜松〜袋井の97%,御殿場〜大井松田の90%,川崎〜東京の96%の過小予測の外はすべて100143%で,名神高速道路では110125%が多く,東名高速道路では100110%が多くなっている。90年の予測値では,全体的に実績値により近づき,名神では実績値の95%105%が多く,東名では93%105%が多くなっている。

 以上より,定常的な交通状態になった特定路線の10年後の交通量は,比較的精度よく予測できるが,需要構造の変化があるときは,精度が悪くなる場合があることがわかる。

③名古屋圏の鉄道網計画(都市交通審議会答申14号)の需要予測4

 1971年に70年のデータに基づいて85年の名古屋圏の人口および通勤・通学者数を予測し,それに基づいて地下鉄網の計画が策定された。ここでは,人口予測に基づいて4段階推定法によって通勤・通学交通が予測された。この予測結果を85年の実績値で評価する。

 名古屋圏の常住人口の予測値は実績値の113%で,名古屋市のそれは125%,名古屋市の従業・従学人口の予測値は実績値の152%で,名古屋市へ流入する通勤・通学者数のそれは171%,そして鉄道輸送量についてみると名古屋市境横断輸送量の予測値は実績値の287%で,名古屋都心流入交通量のそれは377%で,いずれも,実績値の1.53.8倍の過大予測になっている。

 このような予測精度の悪さは,人口予測,特に人口分布の予測の誤差に由来している。この誤差は,6570年間の高い人口流動傾向が,8085年間に大きく変化し,人口流動が減少したことによる。そして、鉄道輸送量の大きな誤差は上記の理由に加えて自動車保有率の上昇による公共交通利用率の大幅な低下の影響があったと考えられる。

4.交通量予測手法の選択

 交通量予測手法の選択においては、前述の交通計画における需要予測にあたって留意すべき事項に配慮した上で、その時点で利用可能な関連資料のもとで技術的に最も適切と考えられる方法を採用する必要がある。このために、交通量予測手法選定の担当者は常に需要予測手法の最新の開発状況と各手法の特性を把握している必要がある。

参考文献

1)河上省吾:『土木計画学』,鹿島出版会,1991

2)土井利明,柴田洋三:「東海道新幹線の需要予測に関する事後的分析」,『土木学会論文集』,No.562IV-35pp.121-1311997

3)「日本道路公団資料」,19721982

4)都市交通審議会:「名古屋圏における旅客輸送力の整備増強に関する基本的計画について(答申第14号)」,1972

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