交通需要予測法の問題点と改善の方向
(1)交通需要予測法の問題点
現在,一般に用いられている交通需要予測法の問題点を列挙すると以下の通りである。
交通需要予測法は,コンピューター計算能力の進展に伴い,多様な個人属性や潜在意識構造の交通行動に与える影響や多時点反応の相互関係などを分析できるまでに発展してきているにもかかわらず,実際の交通需要予測では,利用可能なデータの制約のため,集計四段階推定法か非集計モデルの中のロジットモデルが用いられているに過ぎない。現行の交通需要予測法では,交通が土地利用に与える影響,すなわち交通施設整備が土地利用に影響を与え,開発交通量をもたらす現象はほとんど考慮されていない。そして現行の予測法では,交通施設整備による交通容量増加に伴い,新たに生ずる誘発交通量も考慮されていない。また,四段階推定法では,一般に交通の発生・集中量が交通サービス水準と無関係に予測されているという問題点がある。
交通量配分モデルとしては,均衡配分モデルが理論的に望ましいにもかかわらず,近似解法の分割配分法が用いられることが多い。また,交通量配分モデルで利用される道路リンクの所要時間関数が,各道路網上での観測データに基づいて推定されたものでないため,精度がよくないことが,配分交通量の精度を悪くしている。そして,本来は車種別に所要時間関数を設定すべきであるのに,ほとんどの場合,1車種としているのも問題点である。交通需要予測法そのものの問題ではないが,過去の予測結果の実績値への適合度を検討しようとしても予測法の内容と用いられたデータの記録が整理保管されていないことが多いという問題点がある。需要予測法の改善のためにはその利用結果を照査することが,第一歩であるので,交通需要予測を行ったら,その方法と用いたデータと基本的仮定を記録して残し,後世の歴史的批判にさらし,予測技術の進歩に貢献することを目指すべきである。
(2)交通需要予測法の改善の方向
一般に用いられている交通需要予測法には以下のような改善が必要と考える。
・長期的な交通需要予測においては,その前提条件となる常住人口や就業および従業人口,就学,従学人口などの予測精度が交通需要予測の精度を左右するので,これらの交通発生の関連人口,特にその地域分布の予測を的確に行うことが重要である。
・交通施設整備が土地利用に与える影響によって発生する開発交通量や交通容量増加に伴う誘発交通量を予測法に組み込み,これらを予測できるようにする必要がある。
・交通の発生・集中量予測モデルに交通サービス水準の影響を反映する機構を組み込む必要がある。
・特に,交通整備プロジェクトの社会的合理性を説明するための手段として期待されている費用便益分析における施設を利用することによる便益である施設効果を精度よく予測するためには,交通施設整備による開発・誘発交通量を的確に推計することが必要不可欠である。
・短期的な交通需要予測を必要とする代表例として,交通需要管理(TDM)についてみると,まずTDMのための交通対策として用いられる各種対策の効果を検討できる交通需要予測法を開発する必要がある。すなわち,1つの目的トリップを構成する交通手段連鎖をモデルに表現し,個々の手段に対する交通対策のトリップ全体への効果を推定できるようにし,また,人の1日のトリップ連鎖をモデルに表現し,たとえば通勤交通対策の1日の交通全体への影響を明らかにできるようにする必要がある。
・交通混雑を解消するための方策や環境影響の評価方法を開発し,その効果を検討するためには,交通需要予測モデルに時間軸を導入し,各路線ごと,時間ごとの車種別の交通状況を予測できるようにする必要がある。
・交通需要予測においては,どのようなデータ,情報が利用可能かによって用いる方法が異なってくるので,交通実態調査法と需要予測法を一体的に組合わせて,将来予測を行う必要がある。特に非集計モデルでは,3〜400から1000サンプルのデータがあればよいので,この利点を大いに活用し,それぞれの需要予測の目的に適合した調査を設計し,それを実施した結果に基づいて将来予測を行なうという方式を採用すべきである。このとき,調査,予測作業の成否は,最初の調査表の設計にかかっていることに留意する必要がある。
・交通実態調査においても,交通の意志決定の際の交通主体の意識まで調査し,目的地や手段,経路の決定過程をモデル化し,これらの予測に関して,将来の価値観の変化にも対応できるようにすべきである。
・ 交通行動選択における集団内の他者,たとえば家族構成員などとの関係を考慮できる需要予測モデルを開発する必要がある。また,社会の一般的風潮の交通行動への影響,たとえば低公害車利用という流行への同調・非同調といった他者との相互関係を含めた行動分析や説得と誘導などの人間行動をモデル化した需要予測法の開発が必要である。
・ 自動車の利用削減や公共交通利用促進を目指すモビリテイ・マネジメントに関して、交通サービスについてのアンケート形式やPR誌などによるコミュニケーション方式の自動車利用削減や公共交通利用促進効果とその継続性の普遍性について検討する必要がある。
・ 動的交通政策と動的交通需要予測の必要性:一般に望ましい交通サービスを備えた社会を実現するためには、交通実態調査に基づいてその時点における目標年度の望ましい交通サービス状況を設定し、それを目指した交通政策を実施するという手順を踏むが、その実現には時間がかかる。このとき年月の経過とともに人々の価値観が変化し、望ましい交通サービスが変わることもある。このような状況に対処するためには、常に変化する社会における最適交通サービスシステムの探求とその実現を目指す動的交通政策を採用する必要がある。このための動的交通需要予測手法の開発が必要である。
・交通計画や交通需要予測の記録を残し,できるだけ公表し,それらの想定していた年度に到達したら,実績資料に基づいて計画の実現性と妥当性および需要予測の妥当性の検討を行うべきである。そしてその成果によって交通需要予測法の改善を図るべきである。
・交通施設は社会資本であり,社会の経済・社会活動のために有効に機能することを最終目的とする施設であるので,需要予測を含むその計画内容の情報は公開されるべきである。そして,交通計画に情報公開に耐える内容をもたせるためには,その時点での最善の技術・方法により計画を策定する必要がある。このために,交通需要予測においても,最善の方法を用いて予測を行う必要がある。
参考文献
1)北村隆一:「交通需要予測の課題:次世代手法の構築にむけて」,『土木学会論文集』,No.530/IV-30 pp.17-30,1996
2)原田 昇:「交通需要予測の今日的課題」,『交通工学』,Vol.32,増刊号,pp.4-9,1997
3)森川高行:「需要予測手法の最新動向と展望」,『交通工学』,Vol.32,増刊号,pp.10-15,1997
4)佐々木邦明:『潜在的評価構造の差異を考慮した離散型選択モデル』,(京都大学学位論文),1997
5)谷口綾子・藤井聡:公共交通利用促進のためのモビリテイ・マネジメントの効果分析、土木学会論文集D Vol.62 No.1 pp.87-95、2006.2
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