社会資本整備とその推進体制のあり方
人々が落ちついたゆとりのある家庭生活と仕事とを調和させた快適な日常生活を継続的に営む事ができ、かつ、社会を改善・発展させる活力を失わないようにするのが将来のあるべき社会である。
このような社会を実現するためには、わが国の社会資本整備の現状から考えて将来に向けでどのように地域開発すなわち社会資本整備を進めてゆくべきかについて私見を述べる。
(1)人材養成の必要性―――教育施設の整備拡充
将来のわが国を快適な居住空間に整備し、人々が活気のある豊かな生活を送れるようにするためには、そのような社会を建設する仕事、都市再開発や地域開発を積極的に進める人材が必要であり、またその社会に生活する人々は心豊かで、建設的でなければならない。したがって我々は、この両者の教育を既存の教育機関の活用と目的に適した新しい人材養成機関を創設することによって、進める必要がある。望ましい社会資本の整備水準を決めるのも、それを整備し、利用するのも「人」であり、望ましい社会づくりの基本は、まず人材の育成であるといえよう。
(2)研究開発施設の拡充
わが国の産業の将来を支えるためには常に新しい技術を開発し、産業の技術革新と構造改革を継続的に進めることができるようにしておく必要がある。このためには、筑波研究学園都市や関西文化学術研究都市などのような各種の研究開発機関を複合的に集積した地区を各地域の中心都市に整備し、そこに研究開発担当者や研究成果の利用者等が会合して議論する場であるコンベンション施設を併設し、相互交流を促進する機能をもたせる必要がある。このような地区に創造性豊かな優秀な人材を集めるためには、子弟の教育や文化活動などを含めた日常生活のための質の高い居住環境と、世界的な交流活動を可能とする交通通信施設を整備しておくことが不可欠である。
(3)わが国独自の整備水準の設定とその実現方策
わが国は、来るべき高齢化社会、成熟社会に向けて早急に経済活動水準に調和した社会資本の整備を進めなければならない状況におかれている。従来は、主として先進諸国との相対比較で社会資本の整備水準の目標値を決定してきたが、本来は、先進諸国との相対比較で決めるのではなく、わが国独自の考え方に基づく整備水準を決める必要がある。
それでは社会資本の整備水準はどのように決定すべきであろうか。社会資本の種類によって具体的なサービス水準の設定方法は異なるが、基本的な考え方は次のようにすべきであろう。社会資本の整備に当たっては、基本的に今後20~50年間以上のそれにともなう社会的便益と費用を比較し、便益が費用をある程度以上超過するプロジェクトのみを実施すべきである。このとき社会的便益としては、その施設のもつ本来のサービスだけでなく、都市を構成する機能や景観を形成する機能さらに地球環境に与える影響すなわちCO2削減効果も評価すべきであるし、費用には建設・運営費だけでなく、地球環境を含む環境影響も貨幣換算して加算すべきである。
そして、社会基盤施設整備に関しては、原則として官公庁が利用者と運営者の両方の立場からみた、地域別の適正サービス水準の設定とその監視に責任をもち、その範囲内で民間の経済活動べ一スで供給できるものは民間で、また民間企業では建設・運営資金を確保できない施設、すなわち官公庁でしか供給できないものは公的に整備するようにすべきである。
たとえば、交通施設を例にとると、国は各地域の社会経済特性、道路と鉄道の輸送分担割合などを考慮して地域問、地域内交通に対する適正輸送サービス供給水準を決定する方法について早急に調査検討し、そのガイドラインを作成すべきであると考える。地域別適正輸送サービス水準は地域住民の生活水準その他によって決まる価値観によって変動するが、異なる地域間での輸送サービスの公平性を確保するという考え方に従えば、満足度水準の均等化基準によってサービス水準を設定すべきと考える。バスなどの公共輸送機関の運行頻度の設定を例にとれば、大都市と地方部では当然差があるが、それぞれの地域の住民の満足度は同じになる水準に設定するという考え方である。
すなわち、各地域の社会資本の提供するサービスの物理的水準は異なるが、各地域の人々のサービスに対する満足度がほぼ等しくなるように整備水準を設定すべきであると考える。
また各地域で設定された社会資本サービスが確実に実施されなければならないので、実際に実施されているかどうかを監視する機能を官公庁にもたせるべきである。
(4)整備および管理運営体制の改革
社会資本の計画、建設、管理運営を行う体制の主要部分を担うのは原則として国や地方自治体の組織である。現在わが国の社会資本に種々の問題点があるということは、その整備を担当する組織にそれらの問題点を解決する能力がなかった証拠であり、改革がなされる必要があるということになる。わが国の中央および地方政府は現在の日本の繁栄をもたらした点では、評価できるが、いくつかの問題点をもっていることも確かである。その問題点の一つは役所間の縦割行政の弊害である。このため省庁間にわたる社会資本である交通施設などの整備においては、本来交通機能の実現に向けられるべき労力の一部が省庁問の調整作業に費やされている感がある。多くの省庁に関連する社会資本を整備する際には、それに最も適した総合的な組織を一時的にもっと柔軟に構成できるような体制をもつ必要があるし場合によっては時代と二一ズに即して省庁の再編も必要となろう。
二つ目は、社会資本の利用者の需要を的確に把握し、場合によっては利用者がより高い水準を求めるように教育をしなければならないのにこれが十分行われていないことである。社会資本の整備は国民の二一ズに基づいてなされるので、国民が低い水準の施設で満足すれば、整備水準も低くなってしまうわけである。
三つ目は、社会資本建設によって土地を買収されたり、環境影響の被害を受ける関係住民の合意を得る方法の問題であるが、基本的には悪影響のある地域の土地は買収し、社会基盤施設が住民に悪影響を与えないようにする必要がある。また大規模な施設を建設する場合には、その敷地を含む地域で区画整理や再開発事業を行い、地域住民が共同で社会資本の用地を負担することも考える必要がある。いずれにしても計画に関する情報を公開し、時間をかけて話し合って関係住民の理解と納得を得ることしか他に方法はないといえよう。
(5)社会資本整備の計画策定者と政治家の役割分担
社会資本の計画の決定に際して、計画代替案を策定する計画策定者と政治家の役割がどのようであるべきかということも大きな問題の一つである。計画策定者が科学的計画策定技術を駆使してよい計画を策定しても、最終決定をするのは政治家であり、地道な努力がどれだけ報われるかわからないという不満を聞くことがよくある。このような問題をどのように考えるべきであろうか。
社会資本の計画の評価に係わる主体としては、施設の利用者、建設運営者、周辺住民、自治体、国家などがあり、計画決定においてはこれらの異なる立場からの評価を総合化する必要がある。このとき、計画策定者は従来の技術水準で判断できる限りにおいて最善の計画案を提示し、これを評価主体が評価することになる。現在の技術水準ですべての評価主体を完全に満足させる計画案を作成できるとは限らないので、そのような場合には政治的妥協によって合意を図る必要が生ずる。これを行うのが政治家の役割である。計画を策定する行政担当者は、客観的にみてよい計画を策定するための計画策定技術を磨き、政治的妥協に頼る範囲を狭める努力をする必要があるが、人間社会において、これを皆無にすることは不可能であろう。したがって、政治家もその調整能力を磨き、計画策定技術の足りない部分を補完する必要がある。計画策定者と政治家はそれぞれの役割を自覚し、よりよい社会資本の整備を効率よく推進するために協力し合わなければならないといえよう。そして、一般市民は両者の活動の適否を見守り、裁判制度と選挙制度の適切な活用により、社会基盤整備の計画策定とその実施が順調に進むように協力する必要がある。この際、当該事業に関する情報開示が適切に行われることが必要不可欠であることは言うまでもない。
(6)むすび
社会資本の整備に関する問題解決の基本的方策は、問題の原因を根本から取り除くことである。そのためには、まず社会資本整備に係わる状況の変化に適切に対応できる柔軟性のある行政組織の実現と適切な教育を受けた優秀な人材の育成が必要である。さらに、社会資本の整備計画の内容をPRし、地域住民にその内容と意義を十分に理解してもらい、積極的な協力を得られるようなシステムを作る必要がある。それと同時に、社会資本の適正整備水準のあり方に関する研究を、人々の価値観の変遷やサービスの利用実態の分析などを踏まえて早急に実施すべきである。
■参考論文
1)経済企画庁総合計画局編:今つくる明日への社会資本、平成3年10月、P.9
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