環境影響評価

環境影響評価審査委員の役得

これは名古屋市役所の環境影響評価制度報告書(1989)に掲載されたものに補足を加えたたものである。

 このような表題は市役所の刊行物には穏当ではないと思うが、今後の審査委員募集に少しでもお役に立てばというおせっかいな気持ちで書いてみました。

 私の専門分野は、都市計画、交通工学であるが、その中でも交通需要予測方法に関する研究を研究活動に入った1963年から進めてきた。1973年頃から交通計画の評価方法に関する研究に着手し、その一部として交通公害に関する研究すなわち、環境実態の調査と住民による評価に関する研究を行なうようになった。

 このような時期に、名古屋市の環境影響評価制度が発足し、その審査委員に就任するという機会を得た。制度発足の初期の段階では制度の内容の構成を検討するための話合いの場に参加させていただき、環境影響評価制度の内容やあり方を勉強する貴重な機会を得た。このような制度の内容は資料を収集して読めばある程度理解できるが、一般に条例などを読むだけで詳細な点まで理解するのには大変な努力を必要とする。しかし、私の場合は審査委員として実際に環境影響評価書を審査するといういわゆる実習をさせていただいたので、比較的楽に理解することができ、大学での都市計画の講義では実習の成果を活用させていただいた。これが,審査委員としての役得の1つ目である。

 また、この審査会議では、専門を異にする先生方と親しくお話させていただく機会を持つことができたので、異なる分野の評価に関する話をうかがったり、日頃疑問に思っていることを尋ねたりできて大変有意義であった。これが2つ目の役得である。

 行政に関する委員会の中には、たまには事務的に議事を処理することがその使命であるかのようなものもあるが、この審査会議は学会のシンポジウムや委員会などの運営に近いもので、出席して充実感を感ずることが多かった。中には,環境影響評価制度の限界を感じる例もあったが、この制度がない場合と比較するとはるかによい事業計画になっていることは疑う余地がないといえよう。このような意味から、この制度が名古屋市の都市づくりに果たした役割は決して小さくないといえる。このように街づくりの計画に多少なりとも関与できること、これこそ審査委員の最大の役得と言えないだろうか。

この環境影響評価制度を適切に生かして快適で楽しい都市づくりが進めば、市の基本計画が目指している多くの人々が名古屋市に住みたくなることは間違いなく達成されるであろう。最後に、関係者の皆様のご好意に対して感謝するとともに今後一層のご活躍をお祈りする。

この後 私たちは、名古屋市が名古屋港の奥にある日本最大級のシギ、チドリ類の飛来地藤前干潟にゴミ埋め立て処分場を計画し、アセスメントを実施した結果、「計画が渡り鳥などの生息環境に影響することは明らか」としながらも、人工干潟の造成などを条件に埋め立てに着手しようとした事業にかかわることになる。しかしながら代償措置としての人工干潟造成で現干潟の環境を守ることは極めて困難であるとする環境庁(現環境省)の見解が発表された(1999)こと等もあり、名古屋市は藤前干潟の埋め立てを断念するという事態に至る、という苦い経験をしたのであった。
その後、藤前干潟は国指定の鳥獣保護区として指定され(藤前干潟鳥獣保護区 : 面積770ha2002年)、そのうちの一部(特別保護地区 : 面積323ha)が ラムサール条約登録湿地となった(200211月)。

この経験により、私は干潟の機能の多様さと大きさ、海水浄化機能や野鳥保護機能などをはじめて知ったのであった。このように審査会議で自分の知的好奇心の満足が得られるのと同時に関連する研究のその時点での実情と社会的意義を知ることができるということも役得のひとつであるが、自分たちが下した結論が行政手続きによって覆されるという経験をしたのであった。ただし、この例は地方自治体の判断を国が修正するという環境アセスメント制度が有効に機能したものであったと考えられるが。

 

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