公共交通機関の特性

各公共交通機関についての特性の整理

 

本文は私が指導した木村哲也君の平成203月作成の関西大学大学院の修士論文 DRT・路線バス・LRTの機能評価に基づいた公共輸送体系の構築に関する研究 の第2章である。デマンドバス、路線バス、LRTの実態を要領よく取りまとめているので、ここに紹介する。

1 はじめに

1872年(明治5年)に日本初の鉄道が敷設され,それまでの徒歩中心の生活から「交通機関」を利用した生活へと変遷を遂げることとなった.以来130年以上が経過し,世の中には多種多様な交通機関が存在している.本章では,本研究で対象とする,DRT,路線バス,LRT3種類の公共交通機関を中心に,概要や歴史,導入事例等をまとめ,その整理を行う.

2 DRTについて

2.1 DRTの概要

近年の情報通信技術の発展により,柔軟で費用効率性の高い新しい公共交通機関として,DRT(Demand Responsive Transport,需要応答型交通)が注目を浴びている.DRTは利用者の事前予約に応じて,運行経路や時刻表を設定する特徴を持っており,その点で定時定路線型の一般的な路線バスとは異なる性質を持つ.従来の公共交通機関と比較し,利用者需要にダイナミックに対応したサービスを提供できることから,地方部や過疎部など需要が低密度な地域や,高齢者・障害者用の移送サービスとしての適用可能性が検討されている.

わが国では,1972年に大阪府能勢町とその周辺路線を対象に,阪急バスによってデマンドバスが初めて導入された(1997年に廃止).初期のDRTは低生産性,配車の信頼性の問題や予約に応じた運行のメリットが見込まれなくなったため,移動制約者等の特定の目的を除き,ほとんどが定時定路線型の既存バスに置き換えられた.

その一方で,1990年以降より,欧米及び日本でDRTの実証実験や本格的な導入が行われている.導入が進んだ背景には,予約や配車に使用されるITS技術の発展,運行補助や福祉的な制度などの運行に関する制度の拡充,そして,過疎化や少子高齢化が進んだことによる公共交通の見直しが重要視されてきたことなどが挙げられる1)

2.2 DRTの運行形態の整理

DRTの運行形態は,地域の需要に応じ4つのパターンに分類することができる2)3).路線設定方法と時刻表設定方法によりDRTの運行形態が異なり,2-1にまとめる.

表2-1 DRTの運行形態の分類ダウンロード

(1) Fixed方式

既存バスと同様に路線・停留所・時刻表の設定を行うが,利用者の予約があるときのみ,設定されたダイヤに沿って運行する方式.利用者の予約状況による待ち時間や乗車時間等の提供サービスは変化しない.

(2) Route Deviation(迂回路線設定)方式

固定路線の一部区間に予約に応じてのみ運行する迂回路線を設定する方式.よって,迂回路線上に予約がない場合は基本路線のみの運行となる.迂回経路が短い場合は予約の追加が提供サービスに与える影響は少ないが,迂回経路が長い場合は柔軟なサービスが提供できる一方で,予約の追加が提供サービスに与える影響が大きくなる可能性がある.この方式は主に,既存バス補充や通院用サービスとして導入される.

(3) Semi-Dynamic(フレックスルート)方式

起終点とその出発(到着)時刻を固定し,その間を予約に応じ運行する方式.運行中に追加予約が発生した場合,既予約者の待ち時間や乗車時間が変化するため,予約締め切り時刻を起点出発時刻の前に設定する場合が多く,任意の時刻に予約を行うことができない.この方式は主に,病院輸送や地域内の移動サービスとして導入される.

(4) Dynamic(フルデマンド)方式

利用者の予約に応じ,その都度路線や時刻表を設定する方式.運行中に追加予約が入った場合に,その予約を含め再度路線設定および時刻表設定をし直すため,待ち時間や乗車時間等が変化する可能性が大きい.そのため,Dynamic方式を導入している大半の地域では,予約を乗車の10分~2時間前までに締め切っている.この方式は主に,Door-to-Doorの移送サービスが必要な利用者へのモビリティ確保を目的に導入されている.

DRTの運行形態は対象とする地域の輸送需要に応じて決定され,わが国では上述の(2)(3)(4)の運行形態のDRTが多く導入されている.この3種の運行形態の特徴を2-2に整理する.

表2-2 各運行形態の特徴ダウンロード

凡例:○・・・優れている,△・・・どちらともいえない,×・・・劣っている

上記の3種の運行形態のうち,Route Deviation方式は,既存バスに近い形で導入が容易となる一方で,予約に応じられる区間が短く,居住地区から発生するトリップに対応するためには,迂回による所要時間の増加が大きくなる.また,時間的・空間的な自由度が最も高いのはDynamic方式であるが,それゆえに利用者に提供するサービスがその都度変化する可能性が高くなる.Semi-Dynamic方式はDynamic方式の次に自由度が高く,利用者が少ない場合には所要時間の短縮ができる可能性があるといえる.

2.3 近年のDRTの動向

わが国では1970年から80年代に,既存バスの置換や既存公共交通の補充を目的としてDRTが導入された.その導入地域は,大都市郊外や過疎地,観光地などであった.しかし,東京,神奈川,大阪といった地域ではコストの問題や,運行効率が改善されなかったことからDRTの運行を廃止し,既存の路線バスによる運行に戻している.

1990年代に入り,IT技術が進歩することにより「高度道路交通システム(ITS)」が目覚しく発展することとなる.その技術の一つにDRTも含まれ,19977月に国が「高度交通システム(ITS)推進に関する全体構想」を策定する.その中でITS Japan4)(VERTIS:道路・交通車両インテリジェント化推進委員会)によってITSモデル地区構想のプロジェクトが立ち上げられ,その実証実験が20004月から高知県中村市(現:四万十市)で行われたのが近年のDRT導入の始まりである5)

中村市で行われたデマンドバス実証実験は利用者に好評であったため,中村市では20007月より中村まちバス6)として本格運行を始める.それを皮切りに,2-3に示すように全国20ヶ所以上の地域でDRTの導入や実証実験が進むこととなった.その地域は,大都市都心部,地方中核都市,過疎地域と多種多様である.導入目的としては,都市部では既存バス路線網の補充や工業地域における日中のバスサービスの向上,郊外地域や地方主要都市では,既存バスが提供されていない地区や乗換が必要な地域のバスサービスの向上,地方部ではバスサービスのない地域へのサービス提供や,運行本数の少ない地域のサービス改善などである.

2002年の道路運送法の一部改正に伴い,一般乗合バス事業への参入・撤退が自由化された.それにより,地方都市や過疎地域では,路線バス事業者の不採算路線からの撤退が懸念されている.バス事業者が路線撤退を行うと公共交通空白地帯が発生し,若年層や高齢者といった交通弱者のための公共交通の確保が困難となる.その対策として多くの自治体では廃止されたバス路線を,市町村が直営またはバス事業者に委託することで運行を続けている.バスが地域唯一の公共交通機関の場合,バス路線の存続が不可欠であり,そのための財政負担はある程度はやむを得ない.しかし,バス路線の必要性は認められるとしても,時間帯によってはほとんど利用者のない空バスを定時定路線で運行することは効率性の観点から見ても問題が多い7.そのことから,利用者の需要に応じて時間と路線を柔軟に設定できるDRTは,これらの問題を解決する公共交通機関として今後の導入が期待される.


2-3 近年のDRT導入(実証実験)事例の整理(2004年ごろ)ダウンロード


3 路線バスについて

3.1 路線バスの概要

大量の旅客輸送が可能な乗合自動車を利用し,一定の路線を運行し,一定の運賃で乗客の輸送を行うものを路線バスという.中量の輸送能力を有する公共交通機関で,通常は一般自動車と走行空間を共有して走行する.大都市では,鉄道が幹線で路線バスが支線となるような交通計画を設計する場合が多く,一方で地方都市では,路線バスが幹線輸送を担うことが多い.

路線バスの強みは,初期投資の少なさと路線網設定の柔軟性である.需要に応じて運行させることが可能なため,ニュータウン内や都市内の交通網を充実させる場合には,路線バス網を整備することで地域の交通需要に応じることが多い.昨今では,通常の路線バス車両(約60人乗り)よりも小型の車両(1030人乗り)を使用し,コミュニティバスという形で,より充実した路線バス網を整備している自治体も増加している.一方で路線バスの弱みは,速達性と定時性の欠如である.一般的な路線バスの表定速度は約12km/hといわれるが,都市部では慢性的な渋滞などにより,ダイヤ通りに走行できない場合も発生する.曜日や天候など様々な条件によって走行環境が乱れる点が,路線バスの大きな弱点であるといえる.

路線バスは全国各地で運行が行われているが,2002年に施行された改正道路運送法において路線バス事業への参入・撤退が自由化されたことにより,特に路線バス事業で赤字を抱える地方部での路線バスのあり方が問われている.地方部においては路線バスが唯一の公共交通機関である地域も多く,自動車の運転できない交通弱者に対し,どのように公共交通サービスを存続させるかが大きな課題となっている.

3.2 BRTの概要

都市部においてバスは,信号や交通渋滞などにより,速達性や定時性が著しく悪化する.この弱点を解決するために考え出されたのが,BRT (Bus Rapid Transit)である.BRTとは,「専用走行空間を有し,一般自動車交通と共存して運行する,通常の路線バスよりも高速に運行し,都市あるいは都市圏内の幹線的な交通システムの役割を担っているバスシステム」8)と定義される.具体的には,法規制的にバスしか走行できない道路空間を確保する方法と,物理的にバス以外が走行できない通路を建設する方法とに分けられる.前者が,名古屋市の基幹バスやクリチバ(ブラジル)などに代表されるバス専用レーンの設置であり,後者が名古屋市のガイドウェイバスのような,バス専用道路を新規に建設する方式である.

BRTは,一般自動車交通に左右されないため,一般的な路線バスと比較すると速達性,定時性で優れる.またガイドウェイバスは,新交通システムとは異なり,一般道路にも乗り入れが可能なため,より柔軟な路線設定が可能になる.

海外ではBRTの導入が積極的に進んでいるが,わが国ではあまり進んでいない.その理由としては,道路へのバス専用レーン設置の難しさが挙げられる.しかし,地下鉄や新交通システムに比べ初期投資の少ないBRTは,有用な幹線公共交通機関と考えることができ,今後は法改正も含め,整備が進むことが期待される.

4 LRTについて

4.1 LRTの概要

LRT (Light Rail Transit)とは,1970年代初頭にアメリカで路面電車を都市交通システムとして再生するにあたり,イメージチェンジを図るために戦略的に名づけられた言葉である.日本では,LRTを次世代型路面電車と訳すことが多いように,一般的に路面電車を近代化したものとして認識されている.しかし,LRV (Light Rail Vehicle)と呼ばれる高性能車輌を導入しただけで,路面電車がLRTになるわけではない.その大きな違いは,都市交通としての位置づけにある.路面電車が単なる都市内の輸送機関であったのに対し,LRTは都市計画と結びつき,生活と一体化して便利さを兼ね備えることにより機能を発揮する都市交通システムである.

また,LRTはこれまで以上に交通機関としての「質」を重視し,使いやすさを追求している.車輌は誰にでも利用しやすいユニバーサルデザイン指向で,高性能で低騒音,低振動で快適な乗り心地.また,車体長30mから40mに及ぶ大型連接車を用い,斬新なデザインを施すことで都市のランドマーク的存在として整備されている.速度が遅く,いつ来るか分からないという路面電車の欠点を,一般交通と分離した走行路の確保や電車優先信号の採用で信頼性を高めるとともに,既存交通機関とのネットワーク整備や使いやすい運賃システムなど,交通機関相互の連携システムの再構築によって都市交通全体の利便性を向上させている.さらには地域のまちづくりと連携し,都心部では自動車を遮断したトランジットモールを歩行者とともに走行して,賑やかな中心市街地を形成し,活性化に貢献する.また,郊外では既存鉄道に乗り入れて,シームレスな速達性を目指す.このように,車輌・路線・運行面を総合的に整備した新しい都市交通システムがLRTであるといえる.

4.2 近年のLRTの動向

海外では,欧米を中心にLRTの導入が進んでおり,100以上もの都市ですでにLRTが整備されている.1978年以降にLRTが開業した都市数の累計を2-19)に示す.

2-1 1978年以降のLRT開業都市(全世界)ダウンロード

一方わが国では,1997年ごろより国内軌道線向けの低床式車輌(LRV)の製造が始まり,200011月に成立した交通バリアフリー法の後押しも受け,2010年までに全軌道車輌の30%のバリアフリー化が期待されている.そして,20054月にJR西日本の富山港線をLRT化して開業した富山ライトレールは,わが国における本格的なLRT整備の第一弾とされている.今後,堺市(大阪府)や京都市等でもLRTの導入が検討されており,わが国の都市交通の主役となることが期待されている.


参考文献

1) 竹内龍介,中村文彦;運行形態別DRTシステムの導入効果の評価について,土木計画学研究発表会・講演集,Vol.31CD-ROM pp.2592005.6.

2) 竹内龍介;利用時の予約行動の影響を踏まえたDRTシステムの適用可能性に関する研究,横浜国立大学学位論文,2004.3.

3) 原文宏,若菜千穂他;フレックスバスの予約・配車システムの開発,土木計画学研究発表会・講演集,Vol.29CD-ROM pp.392004.6.

4) ITS Japan<http://www.its-jp.org/>

5) 国土技術研究センター/JICE;デマンドバスシステム,
<http://www.jice.or.jp/itschiiki-j/deployment/areas/06-1nakamura_change.html>

6) 四万十市;中村まちバスHP<http://www.city.shimanto.lg.jp/kanko/dbus.html>

7) 林光伸,湯沢昭;デマンドバス導入のための需要予測と運行形態の評価に関する一考察,都市計画論文集,No.41-3-102006.10.

8) 中村文彦;バスでまちづくり 都市交通の再生を目指して,学芸出版社,pp.182006.10.

9) 服部重敬;1978年以降のLRT開業都市,路面電車新時代 LRTへの軌跡,山海堂,pp.352006.5.

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