大学内駐車対策・地区内交通対策

大学内駐車対策体験記とその教訓

関係者に承認される交通政策の策定とその実施のむつかしさ

本文は建設業界、第41巻、第519925月号に登載されたものであるが、地区内や大規模施設の交通対策に共通する問題を含み、その担当者に参考になる点があると考える。

                       

はじめに

 私の専門の研究分野は都市計画・交通計画・交通工学で、大学では主に交通現象や交通施設などに関する調査、計画、管理などに関する研究や教育を行なっている。しかし、実際の都市計画に関係するのは、建設省、運輸省や県市などの各種プロジェクトの委員会に委員として参加したり、県や市の都市計画審議会や環境影響評価委員会などに参加するという程度で、どちらかといえば、事業を推進するのではなく、批判する立場に近い役割で、比較的自由に自分の意見を述べることのできる気楽?な役回りである。

このような私が実際の交通計画の策定と実施のむつかしさ、問題点を痛感する体験をしたので、これについて述べてみたい。私の経験は自分の職場である名古屋大学の構内の交通問題の対策の立案とそれを実施することであった。以下に、大学内の交通問題の対策のための交通専門委員会委員長(昭和五十七年七月―六十二年七月)として駐車規制計画の立案とその実施に至る経過を述べたい。

 まず、昭和六十一年八月頃にある機関誌からの依頼で学内交通対策の方法を模索していた状況をまとめたが、その当時にこれを公表することの影響を考えて、結局公表しなかったものを以下に示す。

自動車都市の大学キャンパスの悩み(昭和六十一年夏)

 名古屋大学東山キャンパスを初めて訪れた方は、まず車の多さに驚かれるようである。六、七年前の卒業生でも卒業当時と比較して、車が増えたことに驚いているのである。大学内の住人である私たちはこれらの車に毎日悩まされている。このような名大キャンパス内の交通問題を列挙すれば以下のようである。

1.   千四百台分の駐車場所を持つキャンパス内に二千三百台近い自動車が駐車している。

2.   駐車した自動車が歩道を遮断していることが多い。

3.   年間十件近い事故が発生している。

4.   オートバイが玄関前に駐車し、歩行者の通行路を遮断している。

5.   約2千台のオートバイ、自転車が駐車している。

6.   歩行者用道路内を車やオートバイが走り、大変危険な状態である。

私たちはこのような状態になる前から、学内の交通問題を何とかしたいと考え、よく話題にとり上げていたし、工学部では具体的な対策を検討したこともある。

大学の学長と部局長で構成される施設整備を検討するための整備委員会がその下部組織として交通専門委員会を構成したのが昭和四十七年で、学内の交通問題が顕在化しはじめた頃であった。以来この専門委員会が学内の交通問題を解決するために三回にわたって交通実態調査を企画・実施し、それに基づいて駐車規制を中心とする学内交通規制を作成し、昭和五十五年より実施に移された。この規制は、自動車を利用するのが妥当と考えられる人のみに駐車許可証を発行し、駐車を許す方式で、もし、違反した場合は警察の駐車違反警告書と同じ様式の警告書を横の窓ガラスに貼ると言うことにした。罰則はきわめてゆるく規制の効果は運転者の良識と自主規制に期待するものであった。この規制を作成する以前から交通専門委員会に加わっていた私は、この規制方式が成功すると百%信じていたわけではないが、大学に在籍する学生諸君と教職員の自主規制はとりもなおさず、大学の自治であるから、何とかうまくいくだろうと期待していた。

 しかし、結果は前述のとおりで調査結果によれば現在のキャンパスへの流入車のうち学生の車の六十%が許可証を持たないものである。このような事態に対処するため、全学整備委員会から昭和五十七年に交通専門委員会に新しい交通対策を作成するように依頼があった。これを受けて専門委員会では、現在、交通整理員による入構車のチェックなどを含む規制案を検討中であるが、国立大学構内では、駐車の有料制が採用できない(大学病院などは有料制のところがあるが)とか、駐車違反の取締りをする人手がないとか、人手を雇う金を研究費を削ってまで出したくないとか、人手があっても他人にいやがられる厳しい取締りには従事したくないといったことなど多くの制約のため、効果的な対策を見つけるのはきわめて難しいのが実情である。少し大げさな言い方であるが、交通問題解決の難しさは、大学の自治の難しさそのものと言えよう。大学の構内を研究と教育の場に相応しい環境に出来るのは何時のことであろうか。前途多難である。

以上が昭和六十一年の夏、交通専門員会委員長として交通対策の作成とそれに対する合意形成に関与して感じたことを率直に述べたものである。

 交通対策の策定において苦労した点は、効果的と考えられる種々の対策が、各種の法規制や会計検査院の指導などの制約のために採用できないということであった。たとえば駐車を有料制にしてその金を交通対策に使うという案は、国有財産を使って料金を取ることは許されないという理由で却下されるのであった。そこで、他大学の例なども参考にして、入口に監視員を配置して、原則として許可証をもつ人のみ入構を許す方式を採用することにした。同時に、駐車容量の制約があるので従来は許していた学部学生の自動車通学を禁止することに駐車規則を変更し、教職員に対する規制も強化することを考えた。

 大学構成員の合意形成

 前記のような方針に基づいた交通対策素案を昭和五十九年七月に作成した。このとき、このような厳しい交通対策案は、大学構成員全員の了解が得られなければ、執行部としては実施できないということで、本来なら事務部局が調整業務を担当すべきであるが、通常業務とは異なり、専門的な事項もあるし、また、各階層の意見を交通規制案に反映するためにも交通専門委員会で担当して欲しいということだった。このような事情で、学生自治会、大学院生協議会や職員組合の代表者と数回ずつ交渉をもった。名大には徒歩十分の距離に地下鉄本山駅があり、バス路線も多いので、大学を本来の教育・研究の場にふさわしい環境に保つためという大義名分をかかげて、粘り強く交渉し、ほぼ了解を得ることができた。(と私達は考えた。)しかし、学生部長は学生の立場を第一に考えるので、学生の自動車通学禁止になかなか賛成していただけなかった。私達は学生がそれほど強く反対していないことをあげ、了解して下さるよう頼んだが、最終回答は得られなかった。このような中で幸運にも学生部長の任期がきた。退任直前に再度お願いしたら、最終回答ではないが、肯定的な回答をいただけたので、新学生部長には、前学生部長は認めて下さったと考えていますので、よろしくとお願いして了解していただいた。

また、この駐車規制に伴う負担金を支払うのがイヤだという意見を表明されたある学部長に対しては、いろいろの席を利用して説得を試み、何とか賛成していただいた。何といっても、この規制案に当時の飯島学長と多くの部局長が賛成して下さっていたこと、特に学長の担当者への支持が、自信をもって各階層の代表者を説得することを可能にした最大の要因であった。

有余曲折を経て、通算四年間をかけて、昭和六十二年四月に交通対策を実施することができた。ただし、学生の車通学禁止は新入生から実施したので、完全実施までには、その後4年間を要し、完了したのは平成弐年四月であったが、このとき既に後述の二輪車問題が発生していた。そしてほぼ同時期に名古屋市土木局が大学の出入口のある四谷通の施設整備を学内の交通規制に合わせて実施してくださったのは大変ありがたかった。

 交通対策の効果と計画技術のあり方

 この交通対策の効果は、駐車自動車台数をほぼ容量一杯におさえ、整然とした駐車状況をもたらし、年間の事故を十件から二~三件に減少させたことである。しかし、これですべての交通問題が解決した訳ではなかった。私は自動車利用を規制すると二輪車が増えるであろうから、二輪車の規制策も同時に考えるべきと主張したが、そんなに厳しくしなくても・・・という大勢意見で、受け入れられなかった。現在、その結果自動車台数は容量一杯であるが、約二千台分の二輪駐車場所を持つキャンパス内に千二百台のオートバイと二千五百台の自転車が駐車し、新たな交通問題となっている。

 このような経験から得られた交通計画技術の改善すべき問題点などをまとめると以下のようである。

(1) 都市計画・交通計画は法律の枠内で、対策を考えなければならないし、各種施策も法律で規定されたものが多い。このとき法律は実社会の動きに少し遅れて追従するが、この遅れが大きいと法律が社会の発展、進歩を阻害することがある。社会の動きに並行して法律を改正したり、新しい法律を制定する必要がある。

(2) ある地域や地区の環境整備に関する基本原則を制定すべきであると考える。名古屋大学では東山地区交通計画を進める上の基本方針として、歩行者の安全と利便の確保を最優先し、自動車の入構及び構内移動をできる限り削減することなどを決定しており、これが自動車利用を規制することに反対する意見を押えるのにどれほど役立ったか知れない。この基本原則は地域整備の憲法のようなもので、地域整備の最終目的にふさわしい基本原則を決め、その解釈は社会の発展に合わせてゆけば、一貫性のある地域整備が進められる。

(3) 自動車は空間多消費型交通手段で、少数の場合はきわめて利便性が大きいが、多数の車が集中すると混雑現象が発生し、交通機関としての機能が発揮できないだけでなく、大気汚染や騒音などの環境問題が発生するので、車利用を個人の自由に任せるのは問題があり、全体としての知恵を出し、適正な量に規制する必要がある。これは世界中の都市が直面している最大の課題といってよいであろう。

(4) 都市計画や交通計画の策定や実施においては、それに関する最高責任者である首長や学長などの指導性や姿勢が大変重要である。最高責任者は、基本的な方向を示し、計画の策定・実施の実務担当者に大きな権限を与えて、計画の影響を受ける施設利用者の立場、環境影響を受ける人々の立場や計画担当者の立場などを総合的に評価して最適な計画を策定・実施でき、仕事のやりがいを感じられるようにすべきである。

(5) 交通計画の策定に際しては、先見性と総合性をもった計画とする必要がある。名大の例では自動車利用を抑制すれば二輪車利用が増加することは当然であるので、自動車と二輪車の両方の対策を考え、実施すべきであった。自動車駐車対策に二輪車を含めても計画策定・実施の労力はそれほど増えないが、二輪車問題が発生した後に新たに二輪車対策を考えると前述の車対策に近い労力を必要とするであろう。

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