都市交通計画・防災計画

災害を考慮した都市交通体系のあり方

                  
 阪神・淡路大震災は,わが国の交通施設のあり方に根本的な反省をうながす契機をもたらした。現代都市で,わが国において幹線交通施設の一部が数百米にわたって倒壊したり,破損して3-4ヶ月間以上通行不能になって,広域的な旅客や物資輸送に支障をきたしたことはかつてなかった。これは,地震の振動がかつてなかった程強大であったことと,高速道路と新幹線をはじめとする東西の幹線ルートが集中している地域を,地震が襲ったためと考えられる。これらの大変貴重な震災の教訓を今後の交通施設の計画や設計に十分に生かすために,交通施設に対する地震の影響を耐震性,機能信頼性,復旧可能性,緊急活動及び復旧事業貢献度などの観点から詳細な調査・分析・評価を行う必要があることをまず指摘したい。
 次に,地震発生時の都市における交通需要の実態,それを処理するための交通施設の耐災性,これら両者に基づいた災害を考慮した交通体系のあり方に関する私見を述べる。

1.災害時の交通需要
地震発生から都市機能が復旧されるまでの期間,交通需要を地震防災対策という観点からその内容を段階分けすると次のようになる。
1)避難・緊急活動のための交通,2)帰宅のための交通,3)災害応急活動のための交通,4)災害復旧活動のための交通
 これらの1)ー4)の各段階について交通需要の内容をみると、

「1)避難・緊急活動のための交通」では,緊急患者・負傷者の病院への輸送,避難民の避難,緊急医薬品,災害拡大防止物資(用水,薬剤,オイルフェンス等)の輸送,救援人員の輸送等の需要が発生する。
「2)帰宅のための交通」では,業務地域や工業地域などから住宅地域への,自家用車,バス,鉄道による交通需要が発生する。
次に「3)災害応急活動のための交通」では,防疫用薬剤・食料・飲料水の輸送,救援人員の輸送のほか,道路等の復旧資材の輸送等の需要が生じる。
「4)災害復旧活動のための交通」では,前期にひきつづき,衣料品等の生活必需品の輸送,都市機能や生産活動再開のために必要な物資の輸送,復興のための人員の輸送の需要が発生する。

2.被災時における交通手段の特性比較
 地震発生後に発生する交通需要に対し,各種の交通手段が輸送を分担することとなるが,これらの交通手段について,1)施設の被害危険度,2)施設の復旧に要する期間,3)輸送力について比較してみる。2)については,都市機能に著しい被害を生じた阪神大震災の事例を中心にみる。
 陸上輸送のうち,道路輸送については,道路施設の被害危険度は既往震災事例をみると鉄道に比べて小さく,海上輸送や空輸に比べ大きい。輸送上のもっとも大きいネック要因は,高架道路の損傷や橋梁の落下である。道路施設の復旧に要する期間は,宮城県沖地震の事例をみると国道5時間ー4日,県道1日ー3ヶ月,高速道路1時間半ー3日であったが,阪神大震災の場合は高架道路の復旧は1年以上を要する。輸送力をみると海上輸送より小さく空輸よりは大きいとみることができよう。
 次に鉄道輸送についてみると,鉄道輸送の被害危険度は,その特性より輸送手段のうち地震に対しもっとも弱いとみられる。盛土区間の被災による軌道の狂い,橋梁落下等が輸送上のネックとなる。鉄道施設の復旧に要する期間は,宮城県沖地震では5時間ー17日,阪神大震災では3ー7ヶ月と長期に及ぶ。鉄道の輸送力をみると,海上輸送よりは小さく空輸より大きい。
 海上輸送については,陸上の施設は岸壁等のみであり,陸上交通に比べ地震の影響は比較的小さい。宮城県沖地震では,岸壁等に被害は生じたが輸送に支障をきたすには至らなかったが,阪神大震災では,岸壁とそれに接続する道路がほとんど破壊された。そして,その復旧には1年以上を要する。海上輸送の輸送力は,輸送手段のうちでもっとも大きい。
 空輸については,海上輸送と同様に地震の影響を受ける施設は,滑走路,管理施設等のみであり,耐災性は大きいとみられる。実際,宮城県沖地震では被害は発生せず,県外の人員や医薬品等を緊急に輸送することができた。ただし,輸送力は他の交通手段にくらべ小さい。
 なお,鉄道輸送,海上輸送,空輸はいずれも駅,港湾,空港等から市内へ物資,人員を輸送するのに,道路輸送を必要とする。

3.被災時の輸送手段別,路線別重要度
 (1)で想定した被災時の段階別交通需要に対して,(2)で比較した輸送手段の特性を考慮して,被災時の交通需要の段階別に輸送手段別,路線別の重要度を検討する。
   i)避難・緊急活動のための交通
 地震発生直後の避難の段階では,避難場所に通じる道路がもっとも重要となる。また,緊急活動にとっては警察署,消防署,医療機関等に通じる道路が重要である。このとき,避難・緊急活動のための各種情報を人々に的確に伝えることができるような,耐災性の大きい情報システムを整備しておくことが重要である。
  ii)帰宅のための交通
 この段階では,業務地域や工業地域から住宅地域に至る帰宅ルートの道路,鉄道が重要である。
iii)災害応急活動のための交通
 応急活動の拠点は,県庁,市役所,県警本部,消防局(これらの出先機関を含む),公的医療機関,水道,電力,ガス事業体(これらの営業所を含む)や避難場所である。
 また,防疫用薬剤等の市内ストックが不足する場合は,緊急を要することより,空輸に頼る必要があるので,空港が重要となる。
 地震発生から2ー4日後には大量の救援物資や復旧資機材を輸送するため,道路輸送,空輸のほか,海上輸送が重要となってくる。
iv)災害復旧活動のための交通
 災害復旧活動のために優先的に復旧されるべき緊急道路が確保されれば,市内における災害復旧物資の輸送はほぼ支障ないと考えてよいであろう。災害復旧の段階における問題(一部災害応急活動の段階も含まれる)は,市外からの復旧物資の搬入や人員輸送の拠点と上記緊急道路との接続であり,それらの間を結ぶ道路が災害復旧活動の交通にとって重要となろう。市外からの復旧物資搬入や人員輸送の拠点とは,高速道路のインターチェンジ,鉄道の駅,港湾における公共埠頭,空港等である。
 また,この段階では,道路輸送,海上輸送,空輸にさらに鉄道輸送が加わる。
 以上より,被災後には各種輸送手段のうち,道路はとりわけ重要な役割を果たす。それは第1に地震発生直後の避難,災害拡大防止,救援などの災害応急活動のための交通需要に応じねばならないだけでなく,復旧期までの全期を通じて重要な役割を果たすこと,第2に空輸,海上輸送,鉄道輸送を補完するものであること,第3に他のライフラインの早期復旧に不可欠であることによる。そして,阪神大震災の例では,災害復旧活動のための交通が,一部の道路へ集中し,大渋滞を発生させた。このような事態に対する交通需要管理を日頃から準備しておくことが重要と考える。なお,交通需要の発生を抑制し,適切に管理するための交通需要管理は,日常交通においても行われるべきである。

4.交通体系の災害時信頼性の予測
 地震発生時において,交通体系の被災度を事前に予測しておき,それを前提とした避難行動や復旧活動計画を策定しておくべきである。例えば,道路の機能障害を起こす要因としては,道路構造の破壊,落下物による閉鎖,沿道火災による通行不能などが考えられるので,これらの発生確率を予測するシステムを開発する必要がある。また,交通施設の被災状況(平時は渋滞状況)を把握し,被災区間を除外した交通網の運用計画の策定や交通管理を実施するための交通情報管理システムを平時から備え,常に適切な交通サービスを提供するような体制を整えておけば,平常時,被災時のいずれにおいても役立つことになる。

5.災害に強い交通体系の構成
 ある地域の交通体系は道路,鉄道,港湾,空港などで構成され,人々や物資はこれらの各施設を代替的あるいは補完的に乗り継いで,出発地から目的地まで到達している。輸送網の信頼性をあげるには,各地区間に複数の代替経路を確保し,各経路を構成するそれぞれの交通施設の災害安全性を上げる必要がある。
 しかし,阪神大震災で見たように,大変強い地震がおそった場合,絶対に壊れない交通施設を造ることは不可能に近いといえよう。従って,たとえ壊れても人命に支障がないように,倒壊には至らないようにするといった考え方が必要であろう。また,大変強い振動は局地的であるので,交通施設をネットワーク状に配置することによってリダンダンシィを大きくしておき,一部が破壊しても別ルートを利用できるシステムにして,交通機能がマヒしないようにするべきであろう。このとき,交通施設の速度特性により,地震対策の考え方を変える必要がある。すなわち,時速50ー60Kmの通常速度の交通手段では,施設の全体的破壊をさけることによって人命の損傷を防止するとともに,復旧可能な構造とする。そして,時速100Km以上の高速度の交通手段である新幹線などでは,地震動をできるだけ早く感知して車両を安全に停止させるシステムを採用し,大量の死傷者を出さないようにすべきと考える。交通網の基本的評価指標は容量であるが,震災時の耐災害確率を考慮した各地区間の交通容量の期待値を推定し,その値が必要水準以上である交通網を構成するようにすべきと考える。そして,代表的交通施設である道路は,ある程度以上の巾員をもてば,防火帯として機能し,また,防災,救助活動の場としても機能することに注目すべきである。

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