地域別公共交通計画のあり方

大都市圏整備における新しい公共交通体系のあり方

人と国土、第26巻1号、2000年5月に掲載されたもの

1. 社会情勢の展望と交通の実態
 わが国の社会は現在,明治維新,第2次大戦敗戦時に匹敵する大変革期にある。すなわち,私達は,交通と情報技術の進展によりもたらされたボーダーレス化,グローバル化という情報革命のまっただ中にある。このような変革に対応するための国家の戦略が行財政改革であり,経済界の対応が各種のリストラによる構造改革である。ここでわが国の社会の現状と交通施設の状況について見てみよう。
 1975年の65歳以上の人口の割合は7.9%であったが,’95年に14.5%に上昇し,2025年には25%を超え,高齢化が進むと予測されている。一方で,一人の女性が一生の間に産む子供の数は1975年の1.91人が’95年の1.42人に減少し,少子化が予測されている。人々の年間平均労働時間は1985年の2110時間から’96年の1919時間に減少し,心の豊かさが物の豊かさより大事と考える人々が’83年の46.6%から’96年の58.8%へ増加している。国民のニーズは量的拡大から質的向上へ,右上がりの経済発展や人口増加を前提とした成長の時代から成熟の時代へと変化しつつある。
 このような社会において急速に進んだモータリゼーションとそれによる人や貨物の輸送の実態の変遷について見ると以下のようである。
 わが国の自動車保有台数は1970年から’97年までの27年間に3.86倍に増大し,1.72人に1台の割合(100人あたり58.0台)まで普及し,乗用車が70%を占めている。’96年の首都圏,近畿圏,中部圏の百人当たりの自動車保有台数はそれぞれ51.2台,51.0台,67.8台となっており,中部圏の車普及率の高さが目立っているが,首都圏の茨城県,栃木県,群馬県,山梨県はいずれも71~73台となっている。この間,わが国の高速道路は約7,400km,新幹線鉄道は2,346km整備されている。
1997年の国内旅客輸送人キロの輸送機関別分担率はバスを含む自動車が66.6%(’70年には48%),鉄道が27.9%(‘70年には44.9%)で,自動車が人の移動に果たす役割は増加傾向にあり,かつ大きな部分を分担している。三大都市圏の中核部分を占める首都交通圏(東京50km圏),中京交通圏(名古屋40km圏),京阪神交通圏(大阪50km圏)の1955年から’96年までの旅客輸送の交通機関別分担率の推移を見ると,1965年まで3圏とも公共交通機関の分担率はほぼ100%であったが,’98年には首都,京阪神圏のそれは65%,59%であるのに対して,中京圏では31%まで減少している。’97年の国内貨物輸送トンキロの輸送機関別分担率は自動車が53.9%(‘70年には39%)で,鉄道が4.3%(‘70年には18.1%),内航海運が41.6%(’70年には43.1%)で,人の輸送と同様に自動車の役割分担が増加しつつあり,特に陸上運送では92.6%と圧倒的なシェア-を有している。
 このような交通機関の利用状況が道路沿線の窒素酸化物や浮遊粒子状物質による大気汚染や騒音などの環境被害を発生させ,また近年には地球環境問題対策のため交通機関からのCO2発生量を削減する必要性も強く認識されるようになっている。

2. 大都市圏交通体系の基本構造
 三大都市圏のような大都市圏の交通計画のあり方を検討する際の基本的枠組みをまず明確にする。このような大都市圏内には一般にいくつかの生活圏を含んでおり,それぞれの生活圏は半径20~40kmの圏域を構成している。居住者が1つの生活圏として一体感を持てる圏域の大きさは,中心都市の1時間圏であると考えられる。この1時間の時間距離はその地域で一般的に利用される交通手段によるもので,両端末交通手段の所要時間を含むものである。人間の生活圏域には1日単位,週単位,月単位,年単位などのものがあるが,最も基本的な生活圏は月単位までの生活の場で,それが1時間圏と言う形のもので構成され,地域計画の基本的な単位になると考えられる。そこで,中心的都市の1時間圏を大都市圏交通計画の基本単位として採用し,そこに含まれる都市と地方部で圏域を構成し,圏域内構造を支える各種交通施設の計画やその他の社会基盤施設の圏域内都市間での相互利用計画などを策定すべきである。そして,各生活圏間を連結するのが,国土軸や地域連携軸を構成する全国及び地域幹線交通体系である。
 ここでは,生活圏内の交通体系,特に公共交通体系の整備のあり方について考える。

3. 交通サービス水準のあり方
わが国での20世紀における交通機関の推移を見ると大都市内交通では路面電車中心から1955年以降のモータリゼーションの進展に伴い,乗用車の利用が急増し,道路交通渋滞対策を理由とする路面電車の廃止とともに,代替手段としてバスの導入が行われ,同時に地下鉄の建設が進められた。その結果,現在では,東京と大阪で鉄道やバスなどの公共交通機関の分担率が79~63%であるのを例外として,名古屋以下の都市では30%以下となっており,この比率は減少傾向にある。特に中小の地方都市では,バスの利用者の減少により,バス路線の維持が難しくなるという問題が発生している。また,地方部の多くでは,既にバス路線が赤字を理由に廃止され,乗用車を利用できない高齢者などの交通弱者はタクシーに頼るしかない状態となっている。このような状態を放置しておくと,わが国の多くの地方都市や地方部において今後増加してゆく高齢者の生活が不自由なものになる可能性が大きい。
そこで,人々の居住密度の大きさや交通施設の整備状態に対応したその地域社会における公共交通機関と自動車や自転車などの私的交通手段の最適分担関係はどのようなものかを居住者の年齢構成なども考慮して決定する必要がある。このとき,公共交通機関としては,タクシー,バス,路面電車,地下鉄などを取り上げ,タクシーやバスについては乗合方式やデマンド方式などを考え,運営主体の異なるバス,路面電車,地下鉄などに関しては運輸連合方式などを導入し,最も合理的な公共交通サービスシステムを採用して利用者の利便を図ることを前提条件とすべきである。公共交通サービスは定時運行の場合は20分以内の運行間隔を原則とし,これを実現できないような乗客数の場合はデマンド運行を行うべきであると考える。そして,交通に伴う沿道および地球環境への影響やエネルギー消費等も考慮する必要がある。
 また,すべての国民に移動の自由を保障することが,国民が豊かな生活をするための基本的な条件の1つである。国民に移動の自由を公平に保障するという観点から自動車を使えない人のことを考えると,公共交通機関のサービス水準は,私的交通機関の代表である自動車による交通サービスと同程度とすべきであると考えられる。なお,地域ごとの具体的サービス水準(運行間隔,料金等)は利用者のニーズによって設定されるべきである。公共輸送施設は社会資本であるので,そのサービス水準を公共的に供給し,経費の一部を利用者負担として料金を徴収するものとする。乗用車利用の場合も道路の建設・維持費はその一部しか負担していないのであるから,鉄道などの公共交通機関においても同様に考えるべきである。
これは公共交通機関運営の独立採算制を原則とする現行制度を大幅に変更するものであるが,現在行われている各種対策の結果と矛盾する点は少ないので,基本原則をこのように変える方が望ましいと考える。
 ところで,各地域における具体的な公共交通サービス水準はどのように設定すればよいのだろうか。以下では,人口密度の低い地方部と人口集中の見られる都市部に分けて述べる。
1)地方部における公共交通サービス
自家用乗用車がほぼ全世帯に普及した現在のわが国において,地方の山村のような人口の少ない小さい集落で,バスのような定期的に運行される公共交通機関を運営することは,経営上の問題があり合理的でないことは,過疎バスなどの問題から容易に理解できる。したがって,このような地域においては,デマンドバスまたは無線乗合タクシーによって公共交通サービスを確保することを考えるべきであろう。このとき,地域の交通需要の発生量に応じてデマンドバスの車両の大きさを適切に選択し,適正な車両数を決めて輸送経費の合理化をはかり,需要量が小さい場合は無線乗合タクシーとし,その適正台数を決める。公共交通サービスとしては,たとえば朝6時から夜10時までの間に電話で申し込めば,25分以内にバスまたはタクシーが来るようにすべきであろう。そして,このときの公共輸送の料金水準は,自動車のガソリン代,自動車購入及び維持費,運転手経費に見合う経費を加えた金額に設定する。なお,時間帯によって料金に差をつけ,ラッシュ時や夜間は少し高くするなどといったことも考えられる。
この場合,公共輸送に赤字が生ずる場合が考えられるが,そのような場合には前述の公共サービス供給の基本的な考え方に基づき,公的に補償するものとする。ただし,公共輸送サービス供給の経費削減のために,適切なサービス地域を町村あるいは集落単位で設定し,車両には,交通渋滞を避ける合理的なルート選択のためのGPSを利用したナビゲーションシステムを備え,これと連動するコンピューターを活用する運行管理センターの援助によって運行の合理化を図るものとする。このサービス地域や運行管理センターは固定的なものではなく,交通需要の変化に応じて,適宜組替えられる体制としておくべきである。公共交通サービスの内容については地域の住民に適切にPRし,利用の便を図るべきである。    なお,公共交通サービスに関するバスターミナルや停留所およびタクシースタンドなどの基本的施設は公共的に整備するが,公共交通サービスの供給はその水準を決定し,3~4年単位で民営企業に入札によって運営を任せる方式を採用することによって,運営の効率化と固定資本の重複投資の削減を図ることも考えるべきであろう。また,バス停留所やタクシースタンドおよび公共サービス機関のインターネットのホームページなどには,公共交通サービスの内容をわかりやすく表示し,地域外からの来訪者にも利用しやすくする必要がある。
2)小都市における公共交通サービス
 人口10万人以下の小都市における公共交通機関としては,バスやLRTなどの定期運行される中量輸送システムを整備すべきである。この場合も自動車と同程度のサービス水準を確保する観点から,20分以内の運行間隔で運営し,このサービス条件を支えるだけの旅客が確保できない場合は,地方部と同様なデマンド対応方式の運行を行う公共交通サービスを採用するものとする。このようにして,都市内のどこにおいても15分歩けば,20分以内の運行間隔の公共交通サービスが利用できるようにする。そしてデマンド方式交通サービスは電話で依頼すれば25分以内(15分徒歩,20分間隔運行と同等サービス水準)にバスまたはタクシーが来るシステムとすべきであろう。
3)大中都市における公共交通サービス
 数十万以上の人口が一定地域に集中している大中都市においては,公共交通機関として,定期的に運行されるバスや鉄道のような中量以上の公共輸送システムを整備すべきである。このときも,公共交通機関のサービス水準は,前述の公平性の原則から自動車による交通サービスと同程度とすべきである。自動車と同程度のサービス水準を維持することが,公共交通機関の利用を減退させず,地域交通の1/2から1/3の割合の利用率を維持することにつながり,私的交通機関と公共交通機関の両立する合理的な交通体系を確立することを可能にする。
 自動車と同程度のサービス水準としては,その地域の道路整備水準により自動車の地区間の所要時間が決まるので,バスなどの公共交通機関でも,自動車の所要時間の15~30分増の所要時間で目的地へ行けるようにすべきである。このようなサービス水準を満足するためには,都市内では少なくとも15分歩けば20分以内の間隔で運行される公共交通システムに到達できるようにすべきであろう。このサービス水準についてはより詳しい検討が必要であることは言うまでもない。
 大中都市でも人口密度などの関係で輸送需要が小さい場合は定期運行の公共交通サービスでなく,地方部におけるものと同様のデマンド運行方式の公共交通サービスを導入すべきである。
 そして,この公共交通サービス料金は,地方部の場合と同様に自動車の交通サービスに要する経費と地域交通の1/2から1/3の割合の利用率を維持できる料金水準の両者を考慮して適切な料金を設定する。交通サービスは主に所要時間と料金によって構成されるので,それぞれの水準と両者のバランスを考慮することが重要である。もし,公共交通運営において赤字が発生すれば,前述の原則に基づいて公的に補償するものとする。
 また,この地域でも必要に応じて地域を適当な地区に分割して,公共交通機関の運営を行う方式を採用し,必要なサービス水準を決め,3~4年単位で入札により民営企業にサービス供給を任せる方式も考えるべきである。
 このような都市地域で,公共交通機関が民営企業として成立する場合には,適正な利益の範囲内で,公共交通サービスの提供を企業活動に任せるべきであろう。これが,現在の私鉄の企業活動にあたるものである。
なお,公共交通機関には都市を造る機能があり,これを利用して都市造りを進めることができる利点があるので,長期的には駅やバス停周辺に集合住宅や利用者の多い各種施設を配置し,公共交通を利用し易い都市構造の確立を目指すことも重要なことである。

4.公共交通の運営方法とPRの方法の改革
 地域交通における公共交通サービスを公的サービスとして供給するためには各地域における適正な公共交通のサービス水準を公的に決定する必要がある。そのためには,地域を1日生活圏程度の大きさに分割し,その中の公共交通サービスの水準を前述のように公平性の観点から自動車利用にほぼ等しい水準に決定するのが妥当であると考えられる。
 このような要請に対応する方策の1つとして,ドイツの諸都市圏で採用されている運輸連合に近い次のような方式が考えられる。これは,それぞれの地域に存在する交通企業と自治体で連合組織を構成し,この連合組織が地域の公共交通の管理と監督を行う権限を持つものとする。この組織は交通実態調査に基づいて交通計画を策定し,各地区ごとに必要な公共交通サービス水準を3で述べた原則に基づいて設定し,さらにそのサービス供給業務を各企業に適切に配分し,実際に公共交通サービスを供給する各企業の運営状況の監督も行うというものである。この公共交通機関の運営においては,共通運賃制や相互乗り入れの導入および適切な連絡ターミナルの建設などを積極的に行い,利用者の便を図ることはいうまでもない。この運輸連合組織には競争による交通サービスの向上と効率化を図るために,常に新規の交通企業の参入が可能であるようにしておく必要がある。
 そして,人々に公共交通サービスを喜んで選択させるためには,公共交通サービスを人々の期待に添うものとし,その実態の具体的内容のPRをテレビコマーシャルや新聞などで,現在の自動車の広告と同じ程度の頻度で行い,人々の交通手段選択に関する「公共交通サービスは便利で快適であり環境面,エネルギー消費面から見ても優れている」という意識改革を行う必要がある。このためには,公共放送であるNHKの放送で公共交通サービスの内容のPRやその利用促進のためのキャンペーンなどのために1日の中の一定時間を使用するシステムを導入すべきである。そうでなければ民放テレビによる自動車のPRのみが一方的になされ,人々の自動車利用が促進されつづけるであろう。また,公共交通サービスの改善とPRのためにITSやインターネットなどの情報技術も活用すべきであることはいうまでもない。

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