長期的道路整備計画・必要性

長期的道路整備計画の必要性

道路建設、1999年12月号の論説に掲載されたものを再度掲載する。

1. 社会情勢の展望と道路に対する不満の実態

 わが国の社会は現在,明治維新,第2次大戦敗戦時に匹敵する大変革期にある。すなわち,私達は,交通と情報技術の進展によりもたらされたボーダーレス化,グローバル化という情報革命のまっただ中にある。このような変革に対応するための国家の戦略が行財政改革であり,経済界の対応が各種のリストラによる改革である。ここでわが国の社会の現状と道路施設に対する社会のニーズについて見てみよう。

 1975年の65歳以上の人口の割合は7.9%であったが,’95年に14.5%に上昇し,2025年には25%を超え,高齢化が進むと予測されている。一方で,一人の女性が一生の間に産む子供の数は1975年の1.91人が’95年の1.42人に減少し,少子化が予測されている。人々の年間平均労働時間は1985年の2110時間から’96年の1919時間に減少し,心の豊かさが物の豊かさより大事と考える人々が’83年の46.6%から’96年の58.8%へ増加している。国民のニーズは量的拡大から質的向上へ,右上がりの経済発展や人口増加を前提とした成長の時代から成熟の時代へと変化しつつある。

 このような社会における人や貨物の輸送に占める道路の役割を見ると次のようである。1995年における人の移動の60%(1970年には48%)が乗用車とバスによって行われ,道路が人の移動に果たす役割は増加傾向にあり,大きな部分を分担している。1995年における貨物の輸送の53%(1970年には39%)が自動車によって行われ,道路が貨物輸送に果たす役割も大きく,かつ増加傾向にあることがわかる。

 1996年の世論調査によると,国民の道路の状態に対する不満の状況は,何らかの不満を持っている人は5年前より3.2%増えて92.8%となっている。不満の多い順にあげると,道路幅が狭い(49.9%),路上駐車が多い(勝手に駐車して困る)(41.5%),夜間照明がない(少ない)(35.3%),歩道が少ない(33.3%),掘り返し工事が多い(29.5%),交通混雑(渋滞)が多い(26.7%),道路の手入れが悪い(23.9%),案内標識がわかりにくい(17.0%),信号で止められることが多すぎる(16.5%),裏通りに通過交通が入り込んだりして危険(14.5%),車の騒音・振動や排気ガス(13.3%)などである。これらから読み取れることは,国民は身近にある道路の幅員が狭く,歩道も不備で夜間照明がなく,かつ道路が駐車で埋められている状態とたびたびの交通渋滞に不満を持っていると考えられる。

 このような社会のニーズに対して,わが国の建設省の道路審議会の建議では,従来欧米諸国の水準を目指して供給量の拡大を主目的としてきた道路政策を国民生活や経済活動にとっての社会的価値の向上を目指すものに変換し,交通需要マネジメントなどによる移動の効率性向上,歩行者空間や沿道空間などを考慮した運転者を含む人々の満足度向上,環境保全や高度情報化社会への対応を含む道路整備のもたらす多様な価値の向上などを目的とすべきことを提案している。
 ここでは,このように社会が大きく変化している時代の道路整備のあり方,特に長期的道路網整備計画の必要性とそのあり方について考えてみよう。

2. わが国の道路網整備計画の策定状況

 わが国では,道路網の建設のための計画は,まず主要な通過都市を示した大まかな計画である構想を策定し,その後,より詳細な検討に基づいて基本計画,整備計画という順序でより詳しい計画を策定し,最後に道路建設のための実施計画を策定する。そしてこれに基づいて着工,道路施設完成,供用開始と進行し,道路網が出来あがることになる。

 わが国における全国規模の道路網整備計画は,国土計画である全国総合開発計画に基づいて策定される約10~20年間を展望した道路整備の長期構想とそれを具体化する方策と見なせる道路整備五ヵ年計画,さらにこれを各地域別の道路網として詳細に示した地域別道路網計画からなっている。この道路整備の長期構想の計画期間で最も長いのが第8次道路整備五ヵ年計画の際に策定された’78年から21世紀初頭までを展望したもので約25年間を対象としたものである。その後の長期構想は21世紀初頭を2001~5年と考えるとそれぞれ20年,15年,10年間と対象期間がだんだん短くなってきている。道路網の整備計画の基本となる全国総合開発計画の計画期間が10年から15年間であることを考えると,道路整備の長期構想の方がより長期間を展望していたこともあったわけである。

 国土の将来計画を策定するためのシステムとしては,上位計画である全国総合開発計画の計画期間を超えた期間の下位計画である道路網の整備構想を策定することはむづかしいので,全国総合開発計画の計画期間をもっと長期間とするか,それが不可能なら全国総開発計画関連の主要項目だけでも長期展望した長期構想を示すべきであろう。

3. わが国における道路施設の計画と建設の実績例

 ところで,わが国の道路整備には計画から建設・供用までにどの程度の時間がかかっているのであろうか。わが国最初の高速道路で,1965年に全線開通した名神高速道路では計画作成に6年間をかけ,建設に8年を要しており,それに続いて建設された東名高速道路と中央自動車道西宮線では計画にそれぞれ約8年と7年,建設にそれぞれ7年と20年間を要している。

 また名古屋市の15~20km圏を一周し,一般道路と自動車専用道路からなる名古屋環状2号線は計画策定着手から約10年かけて1967年に都市計画決定され,’71年に建設省直轄事業化が決定し,’67年から進められた先行用地買収や区画整理により用地を取得し,’73年から北部区間に着工し,’98年にこの区間を開通させている。すなわち,計画に約10年間,建設に約30年間を要したことになる。

 そして本州四国連絡橋児島・坂出ルートでは,1959年に建設省,’61年に国鉄がそれぞれ調査に着手し,’73年に基本計画に引き続いて実施計画を策定したが,オイルショックで着工が延期され’77年に第三次全国総開発計画で児島.坂出ルートを決定し,翌’78年に着工し,’88年に供用している。すなわち,計画に14年,建設に10年間を要している。

 道路の計画策定から建設・供用までの期間はその道路の延長,投入可能資金量などにより建設速度が異なるため一概に言えないが,現在では高速道路や4車線10km以上の一般国道の建設事業には環境影響評価が必要であるため,それのない場合と比較して約2年間計画策定期間が長くなり,また,道路沿線住民の環境影響による道路建設反対運動などによる事業の遅れなどのため,建設期間は延長する傾向にある。したがって,大規模な道路の計画着手から建設・供用までの期間は一般に15~40年を要するといえる。故に道路整備計画の策定に関しては最低40年先を展望した道路網の基本構想に基づいて整備計画や実施計画を策定すべきであるといえよう。

4. 道路の長期整備計画のあり方

(1) 計画策定状況の記録の必要性

 本文を執筆するに当たり,わが国の主要道路の計画と建設がどのように行われたかを調べるために道路関連の雑誌の記事や建設省や日本道路公団などの記録(中部地建の50年,日本道路公団30年史)を調べた。その結果,工事着工と完工の時期は記録されているが,何時計画に着手して,何年かけて計画を決定したかを明確に記録している例はほとんど見られなかった。したがって,前述の各道路の計画期間は種々の関連記事から推定したものであることをお断りしておく。
 このことから言えることは,有用な道路網を構成できるかどうかを決定するための計画策定がどのように行われたかということとその費用を記録に残すことを義務づけ,事後調査によってその方法や結果の良否を判定し易くし,将来の調査・計画のための技術革新に貢献できるようにすべきである。

(2) 調査・計画費用の増額の必要性

 また,建設省中部地方建設局の資料によると,1997年の道路事業費合計は2121.6億円であるのに対して,調査計画費用は9.83億円で道路事業費全体の0.46%に過ぎす,’92年から’97年までのこの比率は0.26~0.51%の範囲にある。この比率は,建築物の計画設計費の比率が2~10%であるのと比較して,あまりに少なすぎると言えよう。道路の建設費用の3~5%を調査・計画費用として利用し,より十分な調査と計画策定を行うようにすべきであるといえよう。

(3) 長期展望に基づく構想策定の必要性

 前述のように建設に長期間を要する道路に関して,変化していく現実社会に的確に対応した道路網構成や整備方策の開発を目指して,40年先を見通した整備構想を策定すべきである。過去40年間の社会の変化と同様の変化が今後の社会でどのようになるかを予測してそれに対処する方策を考えるべきである。
 なお,長期構想は一度策定したらそれを変更しないというのではなく,5年あるいは10年毎に見なおしを行い,それぞれの時点において最も適切な40年先の展望に基づく構想を策定することをくり返すようにすべきである。
 そして,この構想を国民に周知するように務めておれば,道路建設に対する沿線住民の理解も得易くなり,結果的には計画策定,とその沿線住民の承認の期間を短縮することにつながり,道路の計画と建設の期間を短縮することが可能となる。なお,道路の長期構想を公表することによって道路用地の取得が困難となるような事態が発生する可能性があれば,それに対する何らかの規制策をあらかじめ実施し,問題を未然に防止する必要がある。

| | コメント (0) | トラックバック (0)