地域別公共交通サービス水準・運営方法のあり方 

地域別公共交通のサービス水準とその運営方法のあり方

人々の基本的生活条件は衣食住とそれらを支える交通機能サービスで構成される。そして交通サービスは私的交通サービスと公共交通サービスからなる。交通サービスは社会活動を支える基本的条件で、これがなければ社会は維持できず崩壊していくことになる。したがって、公共交通サービスは社会を維持していくための安全保障装置の役割を担っているといえよう。そこで、ここでは、大都市、中小都市、地方部などの地域別の公共交通サービス水準とその運営方法のあり方について考えてみたい。

(1)   地域交通のミニマム水準

一人あたり国民総生産額が世界の最高の水準となったわが国においては,大都市地域,中小都市,地方部を問わず,どこにおいても交通サービスの必要最小水準として,自動車やオートバイ,自転車などの私的交通機関と,誰でも利用できる鉄道,バス,タクシーなどの公共交通機関の両者を備えることを原則とすべきであると考える。これは,すべての国民に移動の自由を保証することが,国民が豊かな生活をするための基本的な条件の1つであるからである。それでは,私的交通機関と公共交通機関のサービス水準をどのように考えるべきであろうか。国民に移動の自由を公平に保障するという観点から自動車を使えない人のことを考えると,公共交通機関のサービス水準は,私的交通機関の代表である自動車利用による交通サービスと同程度とすべきであると考える。そして,公共輸送施設は社会資本の一部であるので,そのサービスを公共サービスと考え公共的に供給し,経費の一部を利用者負担として利用料金を徴収するものとする。これは現行の制度を大幅に変更するものであるが,現在行われている各種公共輸送対策の結果と矛盾する点は少ないので,基本原則をこのように変える方が望ましいと考える。

 ところで,各地域における具体的な公共交通サービス水準はどのように設定すればよいのだろうか。以下では,人口密度の低い地方部と人口集中の見られる都市部に分けて述べる。

1)地方部における公共交通サービス

自家用乗用車がほぼ全世帯に普及した現在のわが国において,地方の山村のような人口の少ない小さい集落で,バスのような定期的に運行される公共交通機関を運営することは,経営上の大きな問題があり合理的でないことは,過疎バスなどの問題から容易に理解できる。したがって,このような地域においては,デマンドバスまたは無線乗合タクシーによって公共交通サービスを確保することを考えるべきであろう。このとき,地域の交通需要の発生量に応じてデマンドバスの車両の大きさを適切に選択し,適正な車両数を決めて輸送経費の合理化をはかり,需要量が小さい場合は無線乗合タクシーとし,その適正台数を決める。公共交通サービスとしては,たとえば朝6時から夜10時までの間に電話で申し込めば,20分以内にバスまたはタクシーが来るようにすべきであろう。そして,このときの公共輸送の料金水準は,自動車のガソリン代,自動車購入及び維持費,運転手経費に見合う経費を加えた金額に設定する。なお,時間帯によって料金に差をつけ,夜間は少し高くすることなどといったことも考えられる。この場合,公共輸送に赤字が生ずる場合が考えられるが,そのような場合には前述の公共サービス供給の基本的な考えに基づき,公的に補償するものとする。ただし,公共輸送サービス供給の経費削減のために,適切なサービス地域を町村あるいは集落単位で設定し,コンピューターを活用する運行管理センターを設け,運行の合理化をはかるものとする。このサービス地域や運行管理センターは固定的なものではなく,交通需要の変化に応じて,適宜組替えられる体制としておくべきである。公共交通サービスの内容については地域の住民に適切にPR,利用の便を図るべきである。なお,公共交通サービスに関するバスターミナルや停留所およびタクシースタンドなどの基本的施設は公共的に整備するが,公共交通サービスの供給はその水準を決定し,23年単位で民営企業に入札によって運営を任せる方式を採用することによって,運営の効率化と固定資本の節約を図ることも考えるべきであろう。また,バス停留所やタクシースタンドには,公共交通サービスの内容をわかりやすく表示し,地域外からの来訪者にも利用しやすくする必要がある。

2)都市部における公共交通サービス

 数万以上の人口が一定地域に集中している都市部においては,公共交通機関として,定期的に運行されるバスや鉄道のような中量以上の公共輸送システムを整備すべきである。このときも,公共交通機関のサービス水準は,前述の公平性の原則から自動車による交通サービスと同程度とすべきである。自動車と同程度のサービス水準を維持することが,公共交通機関の利用を減退させず,地域交通の2分の1から3分の1の割合の利用率を維持することにつながり,私的交通機関と公共交通機関の両立する合理的な交通体系を確立することを可能にする。なお,公共交通機関には都市を造る機能があり,これを利用して都市造りを進めることができる利点があるので,この点を従来以上に評価すべきである。

 自動車と同程度のサービス水準としては,その地域の道路整備水準により自動車の地区間の所要時間が決まるので,バスなどの公共交通機関でも,自動車の所要時間の15~30分増の所要時間で目的地へ行けるようにすべきである。このようなサービス水準を満足するためには,都市内では少なくとも15分歩けば20分以内の間隔で運行される公共交通システムに到達できるようにすべきであろう。このサービス水準についてはより詳しい検討が必要であることは言うまでもない。

 都市部でも人口密度などの関係で輸送需要が小さい場合は定期運行の公共交通サービスでなく,地方部におけるものと同様のデマンド運行方式の公共交通サービスを導入すべきである。

 そして,この公共交通サービス料金は,地方部の場合と同様に自動車の交通サービスに要する経費と地域交通の2分の1から3分の1の割合の利用率を維持できる料金水準の両者を考慮して適切な料金を設定する。交通サービスは主に所要時間と料金によって構成されるので,それぞれの水準と両者のバランスを考慮することが重要である。もし,公共交通運営において赤字が発生すれば,前述の原則に基づいて公的に補償するものとする。

 このような都市地域では,公共交通機関が民営企業として成立する場合もあるので,このような場合には,適正な利益の範囲内で,公共交通サービスの提供を企業活動に任せるべきであろう。これが,現在の私鉄の企業活動にあたるものである。

 また,この地域でも必要に応じて地域を適当な地区に分割して,公共交通機関の運営を行う方式を採用し,必要なサービス水準を決め,2~3年単位で入札により民営企業にサービス供給を任せる方式も考えるべきである。

(2)   公共交通の運営方法とPRの方法の改革

 地域交通における公共交通サービスを公的サービスとして供給するためには各地域における適正な公共交通のサービス水準を公的に決定する必要がある。そのためには,地域を1日生活圏程度の大きさに分割し,その中の公共交通サービス水準を決定する方式を採用するのが妥当であると考えられる。

 このような要請に対応する方策の1つとして,ドイツの諸都市圏で採用されている運輸連合に近い次のような方式が考えられる。これは,それぞれの地域に存在する交通企業と自治体で連合組織を構成し,この連合組織が地域の公共交通の管理と監督を行う権限を持つものとする。この組織は交通実態調査に基づいて交通計画を策定し,各地区ごとに必要な公共交通サービス水準を(1)で述べた原則に基づいて設定し,さらにそのサービス供給業務を各企業に適切に配分し,実際に公共交通サービスを供給する各企業の運営状況の監督も行うというものである。この公共交通機関の運営においては,共通運賃制や相互乗り入れの導入および適切な連絡ターミナルの建設などを積極的に行い,利用者の便を図ることはいうまでもない。

この運輸連合組織には競争による交通サービスの向上と効率化を図るために,常に新規の交通企業の参入が可能であるようにしておく必要がある。

 そして,人々に公共交通サービスを喜んで選択させるためには,公共交通サービスを人々の期待に添うものとし,その実態の具体的内容のPRをテレビコマーシャルや新聞などで,現在の自動車の広告と同じ程度の頻度で行い,人々の交通手段選択に関する「公共交通サービスは便利で快適であり環境面,エネルギー消費面から見ても優れている」という意識改革を行う必要がある。このためには,公共放送であるNHKの放送で公共交通サービスの内容のPRやその利用促進のためのキャンペーンなどのために1日の中の一定時間を使用するシステムを導入すべきである。そうでなければ民放テレビによる自動車のPRのみが一方的になされ,人々の自動車利用が促進されつづけるであろう。なお、民放テレビも公共の電波を使用しているのであるから、社会の安全保障装置である公共交通サービス維持のための広報活動において一定限度の貢献をすべきと考えることができよう。また,公共交通サービスの改善とPRのためにITSやインターネットなどの情報技術も活用すべきであることはいうまでもない。

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