道路の整備と運用方法にもビッグバンを
本文は、1998年4月号の雑誌、道路建設の論説として掲載されたものであるが、
建設省は国土交通省に、日本道路公団や首都、阪神高速道路公団などは民営化されたが、ここで述べた内容の必要性は現在も継続していると考えられるので、再度掲載する。
1.道路に係わる社会情勢
わが国では,平均寿命の伸びと出生率の低下により人口の高齢化が進み,1995年には65歳以上の老年人口比率が14.5%(2010年には23.1%)となった。今後もこの傾向は進展し,2020年には4人に1人が高齢者という超高齢社会になると考えられる。一方で,わが国の総人口は2010年頃にピークに達した後は減少に向かい,15歳以下の年少人口と15〜65歳の生産年齢人口が着実に減少すると考えられている。このような時代に対処するためには,高齢者や女性の一層の社会における各種生産活動への参加が必要とされ,これらの人々の円滑な社会参加を支えるための,安全で人々にやさしいバリアフリー型の社会基盤の整備や,女性が働きながら子供を産み育て易い社会環境作りが強く求められている。このような社会背景の下で,将来の道路づくりのあり方に関するアンケート調査(1997年のボイスレポート)でも,歩行者中心と高齢者対応の道づくりをすべきであるという意見の比率が1,2位を占めている。
一方,交通および情報技術の進歩に伴う社会・経済活動のグローバリゼーションの進展は著しく,人・物・情報の動きが活発化し,こうした社会経済活動を支えるための,より高度でかつ効率的な社会基盤の整備が求められている。そして,社会・経済活動のグローバリゼーションは,地球温暖化や酸性雨などの地球環境問題を引き起こした。われわれは,人類の存亡に係わるこれらの問題に対処するために,われわれの活動を経済効率最優先から,社会経済システム全体を環境への負荷の少ないものへ転換し,調和のとれた持続可能な環境共生型社会経済システムを構築する必要がある。
また,道路は国民から集めた資金によって社会のために建設されるものであるから,その計画,建設,運営の内容は国民に公表し,国民の意見や要望に適切に対応するシステムを備える必要がある。
以上のような認識の下で,道路整備の進め方についていくつかの提言を述べたい。
2.道路建設の最終目的の明確化
最近,わが国の道路整備はほぼ必要水準に達したので,これからは道路をそれほど建設する必要はないという意見が聞かれることがあるが,道路を建設することは,それ自体を目的としているのではなく,地域や国土を社会・経済活動のために便利で快適な環境に整備するためである。道路計画に際しては,まず目的とする地域社会の内容を明確化し,同時にそれらと道路との関係を把握する必要がある。したがって,社会にとって必要な道路の整備水準は時代と地域によって異なり,道路の種類別必要整備水準が常に改訂されなければならない。そして,道路計画においてはその最終目的をどの程度達成するかを明らかにする必要があり,地域や国土の望ましい環境の実現を目指すべきである。
3.道路は交通システムの1要素である
道路の機能には,交通機能,空間機能,景観形成機能,土地利用誘導機能などがあるが,主要な機能は交通機能である。社会の交通システムは道路,鉄道,空港,港湾などによって構成され,これらが相互に連結されることによって,交通網として機能することができる。したがって,道路計画の策定においては,他の交通施設との相対比較や総合交通網としての道路の位置付けを,財源調達方式や環境影響評価を含めて適切に行う必要がある。すなわち,道路が社会において果たすべき機能を同種機能の他の手段と長期的かつ総合的に比較評価し,その社会,時代に最も適した投資水準を求める必要がある。
4.歩行者・自転車道路の整備
わが国の歩道の整備状況は必要延長の約53%で,特に市街地で幅員3m以上の歩道はその必要延長の28%しか整備されていない。したがって,これでは高齢化社会に対応できないので,一層の整備を進める必要がある。また,自転車道はほとんど整備されておらず,歩道上を自転車通行可という交通規制で対処しているのがほとんどである。都市内における近距離自動車利用のエネルギーや,排ガス削減のための代替手段としての自転車利用を考えた自転車専用道路網の整備が急務である。
5.道路建設および施策の評価システムの改善
建設省では,道路事業を行うに当たっては,費用便益分析を行うためのマニュアル(案)を作成し,新規事業採択においては,費用便益分析による評価を参考にしているとのことであるが,その中には環境影響評価は含まれていないし,交通需要予測法も多分伝統的な四段階予測法を用いているものと考えられる。現在用いられている評価システムは完全なものではないが,道路事業相互の経済的効率性の比較に用いるにはよいであろう。しかし,交通システムの環境に及ぼす影響が注目されている現在では,環境影響を経済的に評価して費用に算入する方法を早急に検討し,導入する必要がある。なお,道路整備などの社会資本整備に関する政策判断に際しては,その時点で客観的・世界的に見て最も妥当と考えられる方法を用いた評価結果を参考にして,最終決定がなされる必要がある。したがって,道路計画を含む交通計画の策定・評価のための各種技術マニュアルは,一度作成されればそれを永続的に使用するのではなく,研究の発展やマニュアル改訂のための検討結果に基づいて,常に改善される必要がある。このような方式を社会制度とするために,例えば技術マニュアルは5年毎に再検討するといった制度を設けることが考えられる。
また,国の財政難に端を発した公共事業抑制という社会的風潮に対して,道路整備を担当する部局は,その費用と効果を社会に対して明らかにし,道路以外の社会資本との効果比較を示し,道路整備の必要性の量と質を地域別に示すべきである。
公共投資には国の経済活動の景気の調節機能としての役割や国家財政上の制約などがあり,それらの観点から社会資本整備の進捗が多少影響を受けるのは止むを得ないが,社会にはその社会・経済活動水準に最も適した道路整備水準があるはずであるから,それを求めて,あるべき整備水準を求める方法とその結果を社会に公表し,同時にそれを実現するための公的財源の確保を図るべきである。そして,政府の財政事情や景気対策などで確保している道路整備財源を他の使途へ流用する必要が生じた場合には,その流用によって生ずる社会的損失を算定し,その損失以上の社会的便益を生む使途にのみ流用を許すべきであろう。このように,道路整備の担当部局は,道路整備に関する直接的な費用・環境影響費用や直接的効果,間接的波及効果などを測定できるその時点の最善のシステムを備えて社会の政策判定資料提供の要請に直ちに応えられる体制をもち,かつそれらの方法の情報を公開すべきである。なお,高規格幹線道路などの大規模な道路は,その計画から建設までに10〜20年かかるので,道路の効果が充分に発揮されるのは,計画から30〜50年後となる。したがって,道路計画の策定は30年後までを考え,その評価は,建設後20〜30年以上までを考慮しなければ,真の評価はできないといえよう。
6.道路の運営体制の改善
わが国の高規格幹線道路や都市高速道路は,建設省,日本道路公団,首都高速道路公団,阪神高速道路公団,本州四国連絡橋公団,名古屋,福岡北九州高速道路公社などによってそれぞれ建設,運営されている。このとき,各道路の交通情報提供も各公団,公社が行うのであるが,異なる道路の接続する地点では,他の公団・公社の管理している道路の情報を接続地点へ到着する以前に提供する必要があるので,道路交通情報の提供体制は,利用者主体の全国の道路網を一体的に管理運営するシステムを構築し,道路利用者に最も有用な情報を与える必要がある。また,有料道路の料金体系が,現在の日本では各公団・公社で独立しているが,本来は社会資本である道路の料金体系は全国統一されたものであるべきなので,道路の管理主体を超越した一体的料金体系の下での料金を課し,徴収した料金を後に管理主体別道路の通過交通量などの合理的基準によって各主体に配分する方式を考えるべきである。
将来,大都市圏をはじめとする交通混雑の激しい地域では,交通需要管理のためのロードプライシングを実施することになるが,この道路課金の適用時には,道路管理主体を無視した道路網運用上最適な料金体系で料金を徴収すべきであるので,現在からその準備を進めておくべきであろう。
7.災害に強い道路づくり
阪神・淡路大震災を契機として,地震災害に強い道路,防災機能をもった道路に対する人々の関心が増し,災害時の緊急輸送が確保できる幹線道路網の形成,防災帯など防災機能をもつ道路空間の整備,道路橋梁の構造強化と安全管理体制の強化などが進められ,さらに電気,水道,ガスなどのライフライン用の共同溝の整備が行われているが,これらを一層強力に推進する必要がある。
1998年1月中旬に,関東・甲信地方を襲った大雪による高速道路の通行止めや大渋滞による混乱のような降雪災害に対する対策としては,北陸や東北地方の積雪対策を導入することに加えて,もし数日前に予測できれば,除雪車を降雪地域へ事前に移動して対処するとともに,降雪予報を適切に伝達することによって災害の被害を減らすことを考えるべきであろう。
以上で述べた道路の整備と運用方法の改善を行うためには,該当する組織とその運用方式を抜本的に変える必要があるので,現在金融システムで考えられている大改革・ビッグバンと同様に,道路整備・運用システムにおいてもビッグバンを実施すべきであるといえよう。
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